大阪大学(阪大)は、重力マイクロレンズ効果を用いて、単独で存在するブラックホールの候補天体を発見したと発表した。
同成果は、阪大大学院 理学研究科の住貴宏教授らに加え、米・カリフォルニア大学バークレー校、米・宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)、NASA、ポーランド・ワルシャワ大学などの研究者も参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、2本の論文にまとめられ、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」および米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal Letters」に掲載される予定だという。
天の川銀河における連星系でない単独のブラックホールは1000万から数億個存在すると見積もられている。しかし、ブラックホールは周囲の環境に対する何らかの影響を観測することで間接的にその存在を推しはかる必要があるため、単独のブラックホールの観測は困難とされてきた。一方、宇宙全体のブラックホールの総量を推定するためには、単独のブラックホールの存在量を把握することが求められている。
そこで研究チームは今回、遠方の恒星(背景天体)の前をほかの星(レンズ天体)が通過すると、その重力が周りの空間を歪めてレンズのような働きをすることで背景天体からの光が一時的に増光されるという、重力マイクロレンズ現象(重力レンズ現象の小型版)を用いることで単独で存在するブラックホールの検出に挑むことにしたという。
住教授らの研究チームが1996年から続けている、日本、ニュージーランド、米国による共同研究の「Microlensing Observations in Astrophysics」(MOA)では、ニュージーランドにある口径1.8mのMOA-II望遠鏡を駆使して、重力マイクロレンズ現象を利用した系外惑星、暗黒物質の探査などを行ってきた。今回の研究でブラックホール天体として候補に挙がったのは、MOAグループが2011年に、天の川銀河の中心方向に観測したマイクロレンズ事象「MOA-2011-BLG-191」だという。
これまでの観測から、天の川銀河におけるマイクロレンズ事象は、毎年およそ2000個ほど観測されているという。しかし、ブラックホールを原因とすると考えられるものは1%以下でしかないとされている。そこで重要となるのが、レンズ天体が重いほど背景天体の増光期間が長くなるという特徴だという。増光期間が100日以上続くのなら、ブラックホールである可能性が高くなると研究チームでは説明する。
加えて、歪んだ背景天体の見かけの位置のずれを検出することも重要だとする。非常にわずかなずれでしかないため、高精度な観測が求められるが、それを得意とするのがハッブル宇宙望遠鏡であり、今回の研究に参加したSTScIのチームが、増光期間が100日以上の5個の事象をハッブル宇宙望遠鏡で観測し、正確な位置情報の時間変化を数年にわたり取得したとする。
そして、そのうち特に増光期間が270日と長かった今回の事象において、背景星の見かけの位置が、通常あるべき位置から約1ミリ秒角(360万分の1度)ずれていることを発見。この結果に対してSTScIのチームは、今回の天体は約5153光年の距離にあり、太陽質量の7.1倍のブラックホールであるとしたとする。