東京都立大学(都立大)は6月17日、有機物において細いヒゲ状の「ウィスカー結晶」が、成長中に発生した気泡の移動に追随して成長していることを発見したこと、ならびに成分が液体から気泡に蒸発し、その後に気泡から結晶面に蒸着するという、従来の成長形式とはまったく異なる機構であることを確認したことを発表した。
同成果は、都立大大学院 理学研究科 物理学専攻の八島拓未大学院生(研究当時)、同・谷茉莉助教、同・栗田玲教授らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
スズや鉛などにおいて、ウィスカー結晶と呼ばれる細いヒゲ状の結晶が形成されることが知られている。非常に細く成長することから、ワイヤーとしての応用があると期待されており、特に、有機物のウィスカー結晶の成長については謎が多いことから、その成長条件やメカニズムの解明が求められていた。
そこで研究チームは今回、「O-テルフェニル」(OTP)と「サロール」という有機物の結晶成長に着目することにし、偏光顕微鏡を用いてその結晶成長過程を観察することにしたという。
その結果、融液状態のOTPでは気泡は入っていないが、結晶が成長し始めると、結晶成長面で気泡が発生するほか、その気泡が移動し、それに追従する形でウィスカー結晶が成長する様子が観察されたという。サロールにおいてもOTPと同様に気泡が発生し、それに追随してウィスカー結晶が成長する様子が観察されたことから、研究チームでは、このウィスカー結晶形成過程は一般性があると考えられるとしている。
また、気泡の正体、ならびに結晶成長中に気泡が発生する理由について、気泡中の成分を正確に直接調べることは困難であるため、間接的な調査を実施したところ、初期には気泡がなかったことから、「有機物に溶けていた空気」と「OTPやサロールの気体」という2つの可能性が示されたとするほか、意図的に空気の気泡を事前に混入し結晶成長させたところ、結晶が空気の気泡と接しても、ウィスカー結晶が成長することは確認されなかったとする。
さらに、OTPやサロールは結晶と液体の密度差が大きく、結晶成長面の近くでは分子が少なくなり、キャビテーション(液体中に泡が発生すること)しやすい状態になることから、結晶と液体の密度差が小さいほかの有機物で実験したところ、このような気泡が発生しないことも確認されたとする。
これらの事実を踏まえ研究チームでは、結晶成長に発生した気泡はOTPやサロールの気体である可能性が高いと考えられるとする一方、あくまで間接的な結果でしかないことから、将来、直接調べることが重要だとしている。