内田洋行は6月2日、東京都江東区で同社が企画・運営を行う自治体職員向けイベント「公共ICTフォーラム 2022」が今年で13周年を迎えた。この中では、茨城県結城市の文書管理システム導入による文書の電子化と電子決裁導入の事例が、同市 総務部 行革・デジタル推進課 行革・デジタル推進係長 湯山友和氏によって紹介された。

  • 結城市 総務部 行革・デジタル推進課 行革・デジタル推進係長 湯山友和氏

同市が両システムを導入するきっかけになったのは、令和2年に行われた庁舎移転だという。これにより、文書の保管スペースが6割削減され、文書を削減する必要に迫られた。また、新型コロナウィルスの感染対策のためテレワークが導入され、在宅で文書の確認や決裁が行える環境を整える必要があったことも影響しているという。

そこで同市では、昨年の5月に複数のベンダーに文書管理システムのデモ・情報提供を依頼した。その後、7社に提案書を依頼し、3社から提案があったという。そして、内田洋行の提案が採用された。

昨年9月からは、稼働に向けた仕様の打ち合わせを行い、今年3月に仮稼働。4月1日から本稼働を開始した。

  • 結城市の文書管理システム稼働まで

システム導入にあたり、職員向けにはDXの意識醸成のため部長級・課長級向けDX研修会を行い、今年の3月には操作研修会を開催したという。操作研修会はコロナの影響で係長以上に限定し、他の職員には、研修会の録画動画を閲覧してもらうことで操作を覚えてもらったという。

  • 結城市の文書管理システムの構成

こだわったポイント

仕様でこだわったポイントは、

・セキュリティ重視の立場から、行政専用のネットワークであるLGWAN(Local Government Wide Area Network)を利用すること
・普段使っているグループウェアと連携し、グループウェアからシングルサインオンで文書管理システムを起動できるようにすること
・グループウェアに決裁待ちの件数が表示されるようにすること
・メールで受け取った内容をそのまま文書管理システムに登録できるようにすること
・パッケージシステムはなるべくカスタマイズしないこと

だという。

  • グループウェア連携

  • メール連携

「決裁待ちの件数を表示することで、決裁しないまま忘れてしまうということがなくなります」と、湯山氏は説明した。

文書管理規程も改正

また同市では、電子文書管理システム、電子決裁システムの導入にあわせ、文書管理規程も改正した。主な内容は以下のようなものだという。

・電子文書を新たに定義し、文書の定義の見直しを行った(紙を前提としない表現に 例:置いてある→管理している、記述する→作成するなど)
・文書管理は、原則、文書管理システムで行うことにした(例外は別途規程:法令の定め、冊子状態、大きさ(複合機でスキャンできない)、訴訟リスクがある、歴史的な文書など)
・総務課長の責務の見直し(総括する→必要な指導および改善を行う、文書管理システムを管理し運用)
・文書管理システムの導入に合わせ、文書の収受、供覧、起案、決裁、保管方法を改めた(収受印、供覧印の廃止、スキャンしたのち、原則、元文書は廃棄、収受簿の廃止、起案は原則電子文書管理システム、課内・複数課を同時並行で供覧など)
・公印を押印する文書の範囲を見直した(押印する文書を限定、 契印の廃止など)

「規程にシステムを合わせるのではなく、システムに規程を合わせることが重要だ」と湯山氏は語った。

システム化の効果

今年の4月1日から本稼働したシステムの成果としては、全部で4,000件の議案のうち、電子決裁のみが3,300件、紙と電子の併用が490件で、電子決裁率は96%だったという。

決裁完了までの日数に関しては、市長決裁が7日程度だったものが2-3日程度に短縮。紙の使用量は12%削減したという。

「今後文書管理システムの利用が成熟してくれば、コピー用紙の削減も進むはず」(湯山氏)

今後の課題としては、文書管理規程の徹底、行政手続のオンライン化、電子契約、電子公印の導入、財務会計の電子決裁化(現在、財務会計は別システム)、内部事務系システムの最適化(単一システム化など)、テレワークの推進があるという。

行政手続のオンライン化について湯山氏は、「文書をスキャンして取り込むのは手間もかかるので、入口から電子化したほうがいい」と述べた。

コンサルティング代表の高橋氏はこれまでの経験を踏まえアドバイス

今回のセミナーのコーディネーターであり、元豊島区職員として庁内のDXに取り組んだKUコンサルティング代表の高橋邦夫氏は、わずか2カ月で電子決裁率96%を達成した結城市の成功要因として、文書管理規程を挙げた。

豊島区も内田洋行の文書管理システムパッケージ「e-ActiveStaff」を導入、2009年より本格的に運用を開始して、3年後に電子決裁率99%を実現している。

「電子化が進まない自治体は、どこまで電子化するかの見極めができていない。結城市さんの文書管理規程はこれまで携わってきた自治体に比べ、ずば抜けて素晴らしい」と述べ、ポイントとして、文書管理システムでの管理を原則にしている点を挙げた。

  • KUコンサルティング代表 高橋邦夫氏

「原則、文書管理システムで行うことを宣言することが大事だ。しかし、それがなかなかできない。例外は後から作ればいい。また、規程の中の文言を紙を前提とした記述から、電子を意識した文言に変更するなど、細かな点も修正していくことも大事だ。そのほか、業者に紙で納品させるのではなく、電子で納めてもらうように改めていくことも大事だ。そのために契約を見直していく必要がある。それによって、電子化99%が達成できる」(高橋氏)

  • 高橋が語った電子決裁のメリット

また同氏は、ファイル管理の大分類、中分類、小分類を見直すことも重要だとした。

「システムを導入すれば(分類が)直るわけではないので、システムを入れるときに見直してほしい。それによって検索性も高まる」(高橋氏)

さらに同氏は、電子決裁を導入すると、決裁期間の短縮につながるのが一般的だが、その要因の1つに、同時並行供覧(回覧)があると語り、そのルール(どこまで同時に回覧するのか)を作ることもシステム導入のポイントになるとした。

  • 結城市の同時並行供覧(回覧)の例

そして最後に同氏は、「決裁電子化の本当のメリットは紙の削減でも、決裁のスピードアップでもない。一番のメリットは検索性の向上だ。電子決裁を入れる前は、その文書がどこにあるのかわからない。そこからほしい情報を探してくるのは大変だ。そのため、自分が起案する場合は、過去に担当したことがありそうな人に文書の存在を確認することになる。聞かれる相手にとっては大迷惑だ。文書管理システム、電子決裁が導入されると、文書の検索性が上がる。豊島区の例では、年間32,000回検索して、そのうち22,000回はその文書をダウンロードしていた。職員が起案する場合は、過去の文書を書き換えて作成することがほとんどだ。文書管理システムを導入することで、その生産性が上がる」と述べた。

  • 豊島区における検索向上によるコスト効果(高橋氏の講演資料より)