カスタムチップを作れば、ソフトウェアで関数を作るより性能を高めたり、密な実装ができるというメリットがあることが多い。しかし、カスタムLSIを作る知識が無かったり、カスタムLSIを作るテクノロジ(ツールやIP)が無かったり、カスタムLSIの試作を行うお金が無いので、カスタムLSIを作ることができないという中小企業は少なくないと思われる。
次の棒グラフはそれぞれがカスタムチップの品種に対応し、縦軸はそれぞれの品種のカスタムチップの必要個数である。紺色の棒グラフのように必要個数の多い品種はカスタムチップを作れば良いが、赤い棒グラフのように使用個数が少ないカスタム品種がたくさんあるので、これらすべてのカスタムチップを作るのは容易ではない。これらのLSIをすべてカスタムで作るには現在の1000倍のLSI設計技術者が必要になる。
現在のスキルレベルを持ったLSI設計者を大幅に増やすのは無理であるが、チップの設計を簡単化して、現在ソフトウェアを設計している設計者がカスタムLSIを設計できるようにすることは、可能性がある。
設計プロセスの簡単化の第1はPDK(Physical Design Kit)へのオープンアクセス化である。細かいLSIの設計ルールを書いたPDKは半導体プロセス部門とNDA(Non Disclosure Agreement)を結んで見せてもらうのが一般的であるが、PDKのオープン化ではNDA無しで、文書にサインする必要もなく利用できるようにする。
PDKがオープンになれば同じPDKを使う団体の間でLSI設計のオープンな協力も可能になる。例えば、SkyWater 130nm PDK比較的シンプルでオープンPDKとなり得る。
ただし、130nmのような古いPDKは秘密の部分が小さく、オープンのPDKとすることができる可能性が高いが7nmや5nmといった先端のPDKは半導体の製造プロセスと不可分な部分が多く、オープン化は難しいのではないかと思われる。
一方、SkyWaterの130nmのような古い半導体プロセスで実用的なLSIが作れるのか心配されるかもしれないが、2021年のEUROPRACTICEの論文では50%のLSIが90nmより線幅が大きいプロセスで作られているとされており、SkyWaterの130nmでも35%~40%の商用チップは作れそうである。
現在、SkyWaterのPDKのコミュニティーのメンバーは3000人を超えており、会話が行われているトピックス/チャネルの数は100を超えている。これらのメンバーはSkyWater PDKを使って協力してLSIを設計できる候補の人たちである。
SkyWaterのPDKを使っていればコードからチップを設計するプロセスをチップ面積と性能のトレードオフを可変して最適点を見つけるというやり方で自動化することができる。これができれば1000人、あるいはそれ以上の回路エンジニアを得たことになる。
CadenceなどのCAEメーカーのツールは非常に高価であるが、回路設計や検証、トランジスタなどの配置配線などはオープンソースのツールが公開されている。オープンなツールは最先端のLSIを作るには機能不足かも知れないが、それほど先端のLSIでなければオープンツールで間に合う場合も多い。
また、DARPAは5年間に15億ドルの予算を使って、回路設計の制約となる事項を軽減するOpenROADプロジェクトを開始している。OpenROADプロジェクトが実用になれば、オープンツールでより高度なLSIを設計することが可能になると期待される。
ツールがオープンソース化されれば広い範囲のエンジニアがプロジェクトに参画することができるようになり、色々な新しいアイデアを取り込むことができるようになる。