大手中古車の販売・買い取り専門店「ガリバー」を運営するIDOMは、C to Cモデルの中古車売買支援サービス「ガリバーフリマ」の運営も手掛ける。ガリバーフリマでは、個人間の取引に伴う名義変更の手続きや個人情報の授受を代行して売買を仲介するため、利用者の利便性の高さを特徴としている。
同サービスは以前、出品された車のナンバーにモザイクをかける処理を人の手で行っており、専属のスタッフ数名が1日あたり計20時間ほどを要していたという。しかし現在では、1名のスタッフが1.5時間のうちに同量の作業を遂行できているというから驚きだ。
同社はどうやって、これほどまでの工数削減に成功したのか。その背景と導入効果について、IDOMの新規事業開発セクションで本部技術担当を務める濱渕佑典氏に話を聞いた。
-- 以前のガリバーフリマでは、どのような課題があったのでしょうか
濱渕氏:ガリバーフリマはC to Cのビジネスモデルで、中古車を購入される方の多くが当社サービスに期待するのは「価格の安さ」です。
車を売りたい方が出品する際に、マイページの中で自分でモザイクをかけていただくための機能はあるのですが、UI(User Interface)などの課題から、モザイクの入れ忘れや不備などが発生していました。
私たちは出品された車の画像を1枚ずつ確認して、不備がある場合には手作業でモザイク処理していました。購入者が期待する価格帯で中古車を提供するためには、この工数がサービス提供企業として課題になっていたのです。
モザイク処理を行うには、専任のスタッフを雇う必要がありましたし、本来はお客様への価値提供に使うべき工数がモザイク処理など単純で補助的な作業に割かれていました。
-- どのようにして課題を解決したのですか
濱渕氏:アリババクラウドの「Vision AI Platform」を使い始めました。このサービスはクラウド型のAIソリューションAPIとしてさまざまな画像認識AIを提供しているのですが、当社ではこのサービスをもとに開発された車両プライバシー保護ソリューションを使用しています。主に使っているAPIは車両のナンバーを識別する機能と、任意の場所をぼかす機能です。
導入する以前は4名から5名の専属スタッフがモザイク処理を施すために1日つきっきりで、1日あたり合計20時間ほどの工数がかかっていました。車両プライバシー保護ソリューションを導入してからは1名のスタッフだけで済むようになり、必要な時間も1日1.5時間まで削減できました。
以前からモザイク処理のためのいろいろなサービスを試してはいたのですが、現場のスタッフが求める精度を満たせずに導入には至りませんでした。内製開発も検討していたのですが、画像処理はテキスト処理などと違ってシステム開発の難易度が高いんです。
そのようなタイミングで、別途インフラエンジニアのチームから偶然紹介されたのが「Vision AI Platform」でした。デモ機能なども提供していただき、結果的に「Vision AI Platform」は精度も高く、十分に現場で使えると判断して導入を決めました。
サービスの導入を決めてから実運用までは非常にスムーズだったと思います。導入を決める前の段階でもテスト環境用のAPIを借りられたので、当社の環境でも使えるかを確認できていました。
営業担当者だけでなくエンジニアの方も打ち合わせに参加してくれたので、専門的な技術用語や具体的な要望などもそのまま伝えることができて、スムーズに話を進められましたね。
テスト段階でも、まれに車の角度や背景色なども問題でモザイク処理がうまくいかない場面があったのですが、相談や問題の解決にも応じてもらえました。「この車種は大丈夫?」「この角度で写っていても大丈夫か?」「車が重なって写っていても大丈夫か?」など、具体的な懸念事項は事前に解消できました。
往々にして、私たちのような技術チームが外部サービスの導入を決める場合に、ビジネスサイドや事業部の承認を得るのが難しいことがあります。しかし、今回は事前にシステム利用時の課題を解決できて、モザイク処理専属のスタッフが1人でも十分に対応できる、あるいは専属のスタッフがいなくても大丈夫じゃないかと試算が出せたので、承認までの期間はいつもより短かったです。
濱渕氏:以前のように人の手でモザイク処理をしていた時期は、画像一覧を眺めながらナンバープレートが写っている写真を選択してモザイク処理をしていました。車を売りたい人がマイページから自分で処理できる機能も提供していたのですが、やはりユーザーにとっては面倒な作業なようで、不備が多かったんです。
現在はAIがナンバープレートを認識して自動で処理をしてくれる上に、画像一覧からモザイク処理を施した画像が一目でわかるようになっているので、当該の写真だけを確認するだけで済むようになったのは非常に役立っています。
システム画面で「元画像に戻す」と記載のある画像はナンバープレートが写っていて、それ以外はナンバープレートが写っていないことがわかります。以前はこれを1枚1枚確認していたので、作業の効率化が進みました。
-- 今後「Vision AI Platform」に期待したい機能はありますか
濱渕氏:ガリバーフリマはC to Cのビジネスモデルですし、近年は個人情報の取り扱いに敏感なお客様も増えているので、われわれとしては車を売買するユーザーに対して「安心安全」「怖くない」と思っていただけるサービスを目指しています。
そこで、ナンバープレートだけではなく、個人情報の特定につながりかねない、背景のモザイク処理までできると嬉しいです。もしくは、車の車体だけを切り抜いて背景をおしゃれな風景に差し替えるような処理ですね。これを当社向けではなくユーザー向けに提供したいと思っています。
「Vision AI Platform」のAPIはもともと社内の工数削減を目的として導入したサービスなのですが、顧客満足度を向上させるためにも活用できるかもしれないと考えられるようになったのは、導入してみて初めてわかった予想外の収穫です。
社内のスタッフが中古車の背景をぼかすだけであれば現状のサービスでも問題なく行えるのですが、お客様の期待に応えられる精度で自由に加工できるようになれば、われわれ開発担当社員だけでなく、ビジネスサイドの社員にとっても嬉しいはずです。