三井物産とKDDIは6月9日、都内で記者会見を開き、人流を中心とした地理空間上の情報をAI(人工知能)分析・可視化できるデータプラットフォームの提供を行い、都市DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する「株式会社GEOTRA(ジオトラ)」を4月に設立したと明らかにした。なお、出資比率は三井物産が51%、KDDIが49%となる。
両社は昨年3月にAIやau位置情報を活用し、人々の移動手段・時間・目的などを把握・予測可能とするプラットフォーム・分析サービスを開発すると発表し、新会社では「GEOTRA 地理空間分析プラットフォーム」として提供を開始する。
GEOTRA 代表取締役社長の陣内寛大氏は「人の動きは交通だけでなく、エネルギーや医療、経済活動をはじめリアル空間上のあらゆるインフラ、サービス、活動のハブとなる最も基礎的な情報だ。GEOTRAは従来よりも分析自由度が高い人流データやシミュレーションツールを提供していくことが、日本が抱える諸課題の解決に向けた突破口になる」と胸を張る。
三井物産では、DX事業戦略において既存事業アセット基盤でのDX、売買・物流基盤でのDX、消費者事業基盤でのDX、社会インフラなどの大型DX、新技術活用視点からのDX、産業破壊/創成視点からのDXの6つの攻め筋を掲げている。そのうち社会インフラなどの大型DXの主要事業領域としてエネルギーソリューションを据え、スマートシティに注力していく方針を示している。
三井物産 代表取締役副社長執行役員CDIO(チーフ・デジタル・インフォメーション・オフィサー)の米谷佳夫氏は「昨年3月にKDDIとAIを活用して人が移動する手段・時間・場所・目的を把握可能とする『次世代型都市シミュレーター』の共同開発を発表し、技術面での検証を終え、さまざまな業界から多くのニーズが確認できたことから、共同出資により新会社を設立した。KDDIの技術力と三井物産の事業ノウハウや総合力、グローバルネットワークを掛け合わせることで、さまざまな分野での可能性を見出せると考えている」と期待を口にした。
一方、KDDI 取締役執行役員専務の森敬一氏は「次世代型都市シミュレーターは未来のまちづくりに寄与していくものと位置付けており、フィジカル空間のデータをサイバー空間に取り込み、分析して再度フィジカル空間に戻すことで、さまざまな用途で利用してもらう。GEOTRAでは、その中でも特に建設工事・道路計画、交通機関・運航計画、出店・広告、配送・物流における人流のシミュレーションを行うサービスを提供する。データはauの位置情報を利用し、10メートル単位の細かな位置情報、取得頻度も15分となり、すでに300の自治体が利用している。こうしたデータを利用して未来を予測していくことが重要だ」と力を込める。
同プラットフォームは、GEOTRAアクティビティデータ、Webダッシュボード、アナリティクスサービスの3つのサービスで構成し、スマートシティ開発などに手掛ける企業や自治体をはじめ、さまざまな事業者の企画・政策に関する意思決定を高度化することを目指す。
具体的には従来は情報粒度が荒く分析精度が低かったが、同プラットフォームはGPS位置情報、匿名化によるプライバシー保護対応済みの地図・交通データや公的統計データ、POI(Point Of Interest)データなどに機械学習モデルを加えることで、柔軟な条件設定を可能とし、細かな粒度での分析ができる。
また、高度なデータ分析が可能なWebダッシュボードにより、新駅や商業施設などの建設時や最適なMaaS(Mobolity as a Service)の設計といったスマートシティ計画をはじめ、人流変化や施策効果などの未来シミュレーションを可能としている。
新会社では、すでに同プラットフォームによるデータを活用し、三菱地所と共同で丸の内エリア(大手町・丸の内・有楽町)のMaaSや街の利便性向上に関する施策検討など、エリアの魅力向上に関する取り組みを開始。
また、渋谷区では区が抱える課題を的確かつ迅速に把握するためのデータ収集を進め、区の現状を可視化・分析を行う「シティダッシュボード」に活用しており、区内の移動ニーズやエリア・空間の特性を把握していくことに役立てる予定だという。