生物の体から海や川に放たれた「環境DNA」を手がかりに、各地の魚類の種類や分布を捉えたデータベースを東北大学などが公開した。環境DNA調査の専用データベースの公開は世界初という。生物多様性の回復や漁業などに役立つ情報源として利用拡大を図る。
自然環境を守る取り組みには、生物の現状の把握が欠かせない。調査は従来、生物を捕獲したり、現場で専門家が確認したりといった作業が必要で、労力や費用が大きい問題があった。これに対し近年、生物の細胞や粘液、糞(ふん)などから出て水中や土壌に残った環境DNAを調べる方法が日本で開発され、普及してきた。「バケツ1杯の水」で、そこにいる生物が分かる。多地点、高頻度の調査に道を開き、ビッグデータを実現する画期的な方法となっている。
こうした中、東北大学が魚類の環境DNA調査を主導し、産官学やNPOの参画で進め、結果を「ANEMONE(アネモネ)データベース」に蓄積してきた。2017年から全国各地を対象に、既に4298回の調査で885種ものデータが集まった。これを幅広く役立ててもらおうと今月2日、一般公開に踏み切った。初期登録によりIDを取得すれば、誰でも利用できる。ANEMONEは「All Nippon eDNA Monitoring Network」の意。調査は17年から科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業により行われ、続いて19年から東北大学、筑波大学、かずさDNA研究所が中心となって進められてきた。約200人のボランティアも参加しているという。
データベースの運用の強化や啓発を進めようと「ANEMONEコンソーシアム」を1日付で設立した。東北大学のほか、航路の外洋で海水を試験採取した日本郵船、南方の魚種の北上で養殖ワカメの被害を懸念する宮城県南三陸町、ボランティアの参画で調査を進めるNPO法人アースウォッチ・ジャパンなど、13団体と4個人で構成。今年度末までに100団体の規模に拡大するという。
ANEMONEコンソーシアムの代表を務める東北大学大学院生命科学研究科の近藤倫生(みちお)教授は、オンラインの会見で「生態系や生物多様性の課題は日々、重要性を増している。ANEMONEを通じ産官学が連携すれば、自然を基盤にした社会課題の解決や、(生物多様性を喪失から反転させる)ネーチャーポジティブな産業につながる。例えば地域振興と自然再生の両立や、AI技術による自然の変動予測や水産資源の利用に期待がかかる。地域住民が豊かな自然を自治管理、活用できるようにもなる。自然と共に発展する社会を創造したい」と述べた。
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