台湾捜査当局が5月23日〜26日にかけて、台北検察局の協力を得て半導体やハイテク分野の技術者の違法な引き抜きをしている疑いで、台湾に進出している中国企業10社を一斉に捜査、70人の関係者を事情聴取し、一部の中国人を検挙したと香港および台湾メディアが報じている。この動きは、2022年3月に中国企業が不法に台湾人材を採用したとして11社を捜査した一連の流れに沿うもので、当局は約100社の中国企業に対する捜査を進めているという。
台湾当局は、中国企業による台湾のハイテク産業の人材の違法な引き抜きが国際競争力と国家安全保障に深刻な影響を及ぼしていると指摘している。中国企業が台湾で営業活動を行う場合には規制当局の事前審査を必要とするが、台湾資本が起業したように装い審査を逃れたり、許可を受けずに潜りで会社を設立するケースもあり、台湾当局は当面、「台湾地域の人々と中国本土との関係に関する規則(台灣地區人民與大陸關係規定)」に違反している疑いで捜査を進めている模様である。今回の捜査では、個人で不法な人材引き抜きを行っていた香港企業のビジネスマンも検挙されたという。
中国の半導体製造メーカーや設計会社は、2021年から従来の2〜3倍の高給で台湾の技術者を集めているという。もっとも力を入れているのは集積回路の設計者で、そうした技術者は遠隔でも仕事ができ、台湾にいながら中国企業で働けることもあり、技術流出の取り締まりが難しいという。
台湾の立法院は、「国家安全保障法」と「台灣地區人民與大陸關係規定」の両方を改正して罰則を厳しくしようと手続き中で、近い将来、当局の定めるコアキーテクノロジーを取得するために違法な手段を使った産業スパイは、懲役12年かつ最高1億NTドル(約4億4000万円)の罰金を宣告される可能性があるという。
また、国家コアキーテクノロジーにかかわる業務に就くために中国企業に転職する技術者は、中国本土に行く前に審査委員会の承認を得る必要があり、中国共産党が有する組織および個人に国家コアキーテクノロジーを提供してはならないことも規定している。
台湾法務省調査局は、半導体などのハイテクは台湾の産業の生命線であり、国防と国家安全保障の基盤にも関係しているので、違反行為は今後徹底して取り締まるとしている。
なお、台湾メディアは、韓国や日本の政府も同様な動きを見せており、中国への最新技術流出防止のために法律を改正し罰則を厳しくしたことや、Samsungが極秘としていた「超臨界流体を用いた半導体洗浄技術」を中国に流出させた元Samsungグループ会社社員らが逮捕されたことなども合わせて伝えている。
台湾政府は、人材紹介会社が中国本土への就職あっせん広告を新聞などに掲載することを禁止し、中国への転職者の事前審査も取りいれたが、技術者の中国への転職そのものを禁止することはできず、台湾各社は待遇面での改善が迫られている。例えばTSMCでは例年、3~5%ほどの賃上げを実施してきたが、2021年1月には20%ほどの賃上げを実施、2022年年もすでに5~10%(平均8%)ほど賃上げ幅を行っているという。