シンガポール発でBNPL(後払い決済)サービスを手掛けるPaceは6月3日、同社サービスの導入企業と共同でビジネス関係者向けのイベント「Pace Summer House」を開催した。メディア向けのイベントではなかったが、「決済サービス事業者が導入企業と連携してイベントを実施することは珍しい」と感じた筆者は、直接担当者に問い合わせ、特別に参加させてもらった。
BNPLとは、「Buy Now Pay Later」の頭文字をとった造語で、文字通り「今買って、あとで支払う」ことを意味している。クレジットカードに代わる決済手段として世界中から注目を集めており、Report Oceanの調査によると、2021年の世界のBNPLの市場規模は約510億ドル(約5兆8981億円)だった。
国内においてもBNPL市場は堅調に伸びており、矢野経済研究所の調べでは、2024年度には2019年比2.7倍の1兆8800億円まで拡大する見通し。2021年10月には米ペイパル・ホールディングスが約27億ドル(約3000億円)で、ペイディの買収を完了させるなど、日本市場に対する海外企業からの注目度も高い。
Paceはシンガポール発の急成長中のフィンテック企業。同社はシンガポール、マレーシア、香港、タイにおいてBNPL事業を展開しており、2300を超えるパートナー企業を抱えている。アパレル業界を中心とした8000以上の店舗にサービスを提供しており、20代~30代の若者が主なユーザー層だ。
そして2022年1月に日本市場にも参入した。同社は2021年11月末に完了したシリーズAラウンドの資金調達(約45億円)で、丸紅グループのコーポレートベンチャーキャピタルである丸紅ベンチャーズから東南アジアのフィンテック企業として初めて出資を受けている。 VP(バイスプレジデント) of Growthのダレン・ゴー氏は、「日本は世界の中でも重要なマーケットと位置付けている。消費者が理想の自分に近づくために必要なものの購入を支援する金融システムを作っていきたい」と意気込みを述べた。
同社が展開するBNPLサービス「pace」は、「無利子の3回分割払い」で商品やサービスを購入できる。消費者は、店舗では二次元バーコードをスキャン、オンラインショップでは支払い方法で「pace」を選択することで後払い決済ができる。
具体的には、利用者はその場で3分割した購入金額を支払い、その後1カ月ごとに残りの代金を支払う。コンビニやATMでの後払いに加え、クレジットカードやデビットカードにも対応している点が同サービスの強みだ。「欲しいもの、必要なものを無理して一括で買う必要はない。そういったニーズに応えるために分割手数料を無料にしている」(ダレン氏)
実店舗とオンラインショップ、両方での導入が可能なので、ヘアサロンやエステ、飲食店などのサービスにも分割後払いを導入できる点が同サービスの強みだ。また海外のPaceユーザーは日本の加盟店でもPaceを利用することが可能なので、再開が期待されるインバウンド効果も見込める。
また、事業者への初期導入費用と月額運用費用を無料に設定しており、決済額に応じた手数料をもらうビジネススタイルを採用している。詳細は明らかにしていないが、同サービスの手数料は業界最低水準という。事業者は最短10日で売上額を「pace」から受け取ることができる。
同社が特に注力しているのが、企業のマーケティング施策の支援だ。具体的には、paceが負担するクーポンを事業者へ配布し、利用者のショッピング履歴や入金管理が分析できる管理ダッシュボードも提供している。同日開催されたイベントもその支援の一つだ。
同イベントでは、「pace」の導入を検討しているビジネス関係者やインフルエンサーを招き、すでに導入している事業者の製品を紹介していた。「Pace」のサービス内容や導入に関する相談などを、担当者へ気軽に聞ける機会の提供を目的とするものだ。
PayPayのような、自治体と連携して割引キャンペーンを行う事例はしばしば見るが、同社のように導入企業直接連携してマーケティング施策を共同で行うといった事例は例を見ない。paceはこれらのマーケティング施策において加盟店から追加で手数料はもらっていないという。
ダレン氏は「今後は、BtoB向けの後払い決済サービスも検討する。分割払いの回数も柔軟に対応させていきたい」と、今後の展開について説明した。同社は2022年末までに1000以上の販売業者の参画と10万人以上のユーザー獲得を目指すとのことだ。