沖縄科学技術大学院大学(OIST)は6月3日、一般的な触媒のように貴金属を用いず、鉄だけを用いて「オレフィンメタセシス反応」という重要な化学反応を促進する触媒を設計したことを発表した。
同成果は、OIST サイエンス・テクノロジーグループの竹林智司博士らの研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の触媒を扱う学術誌「Nature Catalysis」に掲載された。
オレフィンは「不飽和炭化水素」ともいい、ポリプルピレンやポリエチレン、エチレンなどの高分子化合物の総称である。炭素と水素からなり、炭素-炭素二重結合を持つ化合物として知られ、オレフィンメタセシス反応では、オレフィン同士が炭素原子を交換することで、新しい炭素-炭素二重結合ができ、触媒は、元の二重結合を切断して新しい二重結合を形成させることにより、この組み換えを促進する役割を担っている。
現在、オレフィンメタセシス反応を促進する触媒には、貴金属である原子番号44の白金族元素の一種であるルテニウム(Ru)が頻繁に使用されている。そこで研究チームは今回、より豊富な金属である鉄を使用した触媒を作ることで、プロセス全体をより低コストで、環境に優しくすることを目指したという。
鉄が選ばれた理由の1つは、ルテニウムと周期表で同じ第8族に属しているためで(原子番号26の鉄は第4周期で、周期表で第5周期のルテニウムのすぐ上に位置する)、似たような性質を持つと考えられてきたためだという。
実際に、今回の研究では、新しい鉄錯体が設計され、オレフィンメタセシス反応の触媒として使用できることが実証されることとなった。炭素-炭素二重結合の切断と生成により、小さな化学分子が連結して鎖状分子を形成することが証明されたとする。
なお、今回の研究から鉄触媒の可能性を示すことに成功したものの、ルテニウム触媒に比べると応用範囲が及ばないと研究チームでは説明しており、今後、ルテニウム触媒に代わる鉄触媒へと発展させるために、課題である活性が低く、空気や湿気に対して不安定であるという問題を解決していく必要があるとしている。