新型コロナウイルスを不活化できる卓上型装置を開発した、と名古屋大学の研究グループが発表した。カーテン形状の気流である「エアカーテン」を強力にし、ウイルス不活化機能がある深紫外線発光ダイオード(LED)を活用した医工融合技術の成果だ。医療現場や企業の受付など、さまざまな対面場所での感染防止対策に活用できそうだ。

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    名古屋大学の研究グループが開発した卓上型エアカーテン装置(名古屋大学提供)

研究グループは名古屋大学未来材料・システム研究所の内山知実教授、天野浩教授(ノーベル物理学賞受賞者)や同大学大学院医学系研究科の八木哲也教授のほか、同大学医学部付属病院、名古屋医療センターや民間企業の研究者らも参加した。

新型コロナウイルスの感染防止のためには対人距離を確保する必要があるが、病院やクリニックでの問診、治療などの医療行為では、距離を保つことが難しいケースが多い。現在、空気の流れを遮断する方法として透明アクリル板が多用されている。しかし、例えば医療現場では医師、看護師は患者らと直接触れることができないため使えなかった。

エアカーテンは通常、静止空気中にノズルで空気を噴出させてつくるが、周囲の空気を巻き込んで拡散し、カーテン形状は崩れてしまいがち。空気中にウイルスがあるとそのウイルスをかえってまき散らしてしまう恐れもあった。研究グループの内山教授らは、ノズルの内部に「切断翼」とよばれる特殊な翼状部品を搭載して、エアカーテンの気流の持続力を高め、気流の長さも延伸にして強力にすることに成功。装置下部で空気を吸い込む仕組みにして卓上に置ける程度にコンパクトな大きさにした。

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    卓上型エアカーテン装置がウイルスを含んでいる可能性があるエアロゾルを遮断する仕組み(名古屋大学提供)

疑似呼気発生装置を使い、エアロゾルの流れを可視化した実証実験では、エアロゾルは装置の反対側には行かないことを確認。医療従事者が採血するケースを想定してエアカーテンを横切るように腕を出した場合でもカーテンの遮断効果があることを確かめたという。

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    疑似呼気発生装置によるエアロゾルの流れの実験。エアカーテン装置を停止(a)するとエアロゾルは直進し、作動(b)させるとエアロゾルはカーテンの流れと衝突して疑似呼気発生装置の反対側に行かない(名古屋大学提供)

研究グループによると、波長280ナノメートルの深紫外線は新型コロナウイルスの不活化に有効。同グループはこの波長の深紫外線LEDを搭載した箱型装置も作製した。装置内にエアカーテンを導いてウイルスを不活化する仕組みだ。名古屋医療センターでの実験では新型コロナウイルスを検出限界まで不活化できた。

卓上型エアカーテン装置とウイルス不活化装置を組み合わせれば、エアカーテンでウイルスを含むエアロゾルを遮蔽でき、空気の流れを常にウイルスフリーの状態に保つことができる。一般的な空気清浄機のフィルターはウイルスを含むちりやほこりが堆積するために定期的な交換が必要だが、開発された装置はフィルター不要で、メンテナンス間隔はLEDの寿命に相当する1万時間以上の長期間連続稼働が可能という。

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    卓上型エアカーテン装置とウイルス不活化装置の組み合わせで空気の流れを常にウイルスフリーにできる(名古屋大学提供)

理化学研究所が運営するスーパーコンピューター「富岳」によるシミュレーションでは、マスクをつけても着用の仕方が不十分な場合、通常の会話でも微小な飛沫を含むエアロゾルはかなり室内に拡散することが分かっている。アクリル板などのパーテーションでもその高さや置き方、人間の位置によってはかなり拡散することが確認されている。医療現場では患者がマスクを外さなければならない場面もある。

研究グループは企業と研究協力しながら2、3年後の実用化を目指している。この研究は科学技術振興機構(JST)の研究支援で進められ、研究成果は5月17日付米科学誌「AIP Advances」に掲載された。

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