消費者の趣味趣向が多様化しており、グローバルに展開する企業が増えているため、製品の開発競争は激化している。
従来よりも短期間で多種多様な製品を開発する必要が出てきており、製品のライフサイクル短縮に伴い開発期間を短縮せざるを得ない状況でも、十分な製品品質を確保する必要がある。
そこで、FMEA(Failure Mode and Effects Analysis)など、設計品質を向上させるためのツールが活発に運用されており、その中の1つとしてDRBFMも広く使われている。
この記事では、DRBFMの概要や期待される効果、取り組み手順とポイントなどについて解説する。
DRBFMとは?
DRBFMは、Design Review Based on Failure Modeの頭文字を取った略称で、トヨタ自動車が開発した設計ツールだ。設計開発の品質を向上し、不具合を未然防止するために用いられている。
DRBFMは、実績のある既存品からの変更点に着目し、心配点の抽出や変化によって生じる背反を明確にするために用いられる。現在では、製造業を中心にさまざまな業界で用いられ、設計開発をする際には欠かせないツールの1つとなっている。
DRBFMに期待される効果
新しい製品を開発する場合、現行製品から成り行きの開発を行ってしまうと、さまざまな品質課題が生じるリスクがある。例えば、過去に発生した課題が再発してしまったり、現行製品からの変化点によって、新たな不具合が生じてしまったりする可能性がある。
新製品開発をする際に発生する不具合を最小限にするためには、再発防止やDRBFMの実施が効果的である。再発防止を行うことで、過去に生じた不具合の発生を抑制できる。さらにDRBFMを実施することで、現行品からの変化点によって生じる不具合を最小限に抑えることが可能だ。
また、DRBFMシートの作成やシートを用いたDR(Design Review:第三者の観点から開発品などを講評・審査してもらうこと)を通して、技術者の成長に繋がる。心配点の抽出やその対策の検討、さらにDRでさまざまな知見を持った技術者との議論を通して、高品質な製品の設計をする際に抑えるべきポイントを身につけることが可能である。
DRBFMの実施フローと重要なポイント
では、次に実際にDRBFMを実施する際のフローと、それぞれの手順における重要なポイントを紹介する。
手順1:現行品からの変化点を抽出する
はじめに、実績のある現行品からの変化点を抽出する。この段階で抽出漏れがあると、抽出漏れした変化点については、すべての工程が飛ばされてしまうため、十分な注意が必要だ。
DRBFMシートを作成し始めたばかりの段階だが、変化点抽出を担当者が実施した段階で抽出漏れがないか関係者とレビューをするのがおすすめだ。
手順2:変化点に対する心配点の抽出
手順1で抽出したそれぞれの変化点について、その変化、変更が生じたことで発生する心配点を抽出する。ここで、心配点抽出精度の向上やDR時の品質向上を実現するために、あらかじめ過去の経験に基づいた心配点抽出の観点をリストアップしておくといいだろう。
具体的な項目は製品の種類や変更の内容によって大きく異なるが、例えば以下の観点などが考えられる。
- 製品強度
- 製品寿命
- 製品の安全性
具体的な項目は、これまで実施してきたDRBFMで抽出した心配点を分類し、あらかじめDRBFMシートに併記しておくことをおすすめする。また、新たな分類が発生するたびに追加していくことで、DRBFMシート自体の品質を向上させることが可能だ。
手順3:心配点の潰しこみ
抽出したそれぞれの心配点は、問題ないことを確認する必要がある。心配点を潰しこむための方法としては、以下のような項目が考えられる。
- 机上計算
- 実機試験
- 後工程での確認
シミュレーションなどを活用して、できるだけ机上計算で確認するのが効果的だ。ただし、机上計算では明確にできない項目や影響度の大きさから、実機試験で問題ないことを確認する必要がある項目もある。
それぞれの項目をどのようにつぶし込むかは、DRを実施する際に知見を持ち判断ができるレビュアーに相談して決めることが重要だ。
DRBFMの制作例
DRBFMの制作例を紹介する。
上記の図は、簡易的に作成したDRBFMの記載例だ。一般的に、図の横軸に記載した以下の項目は最低限必要な項目として設定されている場合がほとんどで、多くの場合にはより細かく分類されている。
- 変更点
- 変更による心配点
- 心配点を取り除くための対応
- 実機による検証
- 設計・評価・製造への反映
- 結果
変更点に対して、フォーマットに記載すべき項目を埋めていくことで、現状の設計で問題ないのか、変更による背反が許容できずに再度設計変更が必要なのかを確認することが可能だ。
この制作例はあくまで一例なので、自社の製品や変更による影響を考慮し、徐々にDRBFMシートのフォーマットをブラッシュアップしていくといいだろう。
DRBFMの活用により品質の向上を実現
今後、製品開発の競争は激化することが想定されており、DRBFMのように現行品との変更点に着目して、課題を未然につぶし込む取り組みはますます重要になる。
まずは入手可能なフォーマットを使用してDRBFMシートの作成を進め、DRを経験することで製品の品質を向上させるといいだろう。また、DRBFMシートに経験をフィードバックし、蓄積していくことで、エンジニアのスキル向上も期待できる。
製品の効率的な品質向上に加えて、技術や知見の蓄積となるDRBFMは、積極的に活用するのがおすすめだ。