この10年で、セールスの世界は大きく様変わりした。モバイルインターネットの普及が顧客の購買行動を変え、さらにコロナ禍はオンラインへの移行を強力に推進した。従来のままの考え方はもはや通用しないのが現状だ。

そのような状況下で、ソフトバンクはマーケティングとインサイドセールスの連携を強化し、デジタルセールスによるビジネス革新に取り組んでいる。

同社は短期間で旧体制から脱却し、新たなセールス組織を作り上げた。この革新のキーマンとも言えるソフトバンク 法人事業統括 法人第三営業本部 本部長の原田博行氏が、4月21日に開催されたTECH+セミナー「セールステックDay 2022 Apr. お客様を主語にセールスをアップデート」に登壇。同社におけるデジタルセールスの歩みについて語った。

モバイルインターネットの普及を機に、デジタルセールスへ移行

デジタルセールスという考え方は、元々「日本よりも海外で先行して広まっていた」と原田氏は言う。それは、特に米国など広大な国土を持つ国では物理的な距離があるためにさまざまな無駄が発生していたことや、ルーツや文化も多様な海外では、誤解が生まれないようなるべく物事をはっきりさせながらビジネスに取り組まなければならないことに起因している。

こうした背景から、海外ではデジタルテクノロジーをセールスに取り入れる考え方が早くから発展してきたのだ。

翻って日本では、物理的な距離がそれほどなく、ルーツも海外ほど多様ではない時期が長かったため、ハイコンテクストな商談が成立していた。それ故にデジタルセールスという考えが長く浸透しなかったのである。

しかし、と原田氏は続ける。

「2008年に我々がiPhoneを日本市場で発売したあたりから、モバイルインターネットがビジネスでも活用されるようになりました。これにより、お客さまの購買行動がこれまでと変わり、何か買い物をする際にはまず“ググる”、Webで見ることが当たり前になりました」(原田氏)

知識を持たない顧客にセールスを行うのと、すでに競合製品との比較を終えて製品知識も豊富に持つ顧客にセールスするのとでは、営業に求められるスキルも変わってくる。従来のように、営業担当者の勘や経験、根性に頼る時代ではなくなったのである。

さらに、ソフトバンクでは取り扱う商材が年々増加し、すべての商品を営業が把握することが難しくなってきたという事情もあり、2018年、デジタルマーケティングとインサイドセールスを統合した新本部を設立。デジタルセールスの本格的な運用に着手した。

「従来マーケティングは、ブランディングやPRなど副次的にビジネスをサポートする機能として存在していました。2018年以降、マーケティングをインサイドセールスと統合することで、新たな顧客ニーズづくりを目指したのです」(原田氏)

  • デジタルセールスにおける、デジタルと人(インサイドセールス)のタッチポイント

予期せぬ転機はすぐに訪れた。2019年に最初の感染者が報告された新型コロナウイルスである。顧客を訪問することが難しくなり、ウェビナーやメールマーケティングといったアプローチが急速に進んだ。

ソフトバンクの法人営業部門では2019年にはウェビナーを開催していなかったが、2021年には179回開催。さらに、毎年リアルで行っていた法人向けイベント「SoftBank World」をオンラインで開催するなど、急速なデジタルシフトを進めていった。リアルからオンラインへの転換には、思わぬ効果もあったという。

「SoftBank World 2021の登録者数は4万3000人に達しました。リアルで開催していた頃は会場キャパシティの都合上、2日間で1万人でした」(原田氏)