検体をセットして9分以内に新型コロナウイルス感染の有無を高い精度で判定できる自動検出装置を開発した、と理化学研究所(理研)などの研究グループが発表した。現在主流のPCR検査は判定まで最短で1時間程度かかるが、新装置は検査の手間を大幅に軽減でき、大量の検体処理が可能。変異株の判定もできることから、次世代の最速検査装置として早ければ今年度中の実用化を目指すという。
研究グループは理研開拓研究本部の渡邉力也主任研究員のほか、東京大学先端科学技術研究センターの西増弘志教授、京都大学医生物学研究所の野田岳志教授や東京医科歯科大学、自治医科大学の研究者らで構成した。
渡邉主任研究員や西増教授らは、細菌の免疫機構に関係する「CRISPR-Cas13a」という酵素と蛍光分子を混ぜると、この酵素が新型コロナウイルスのRNAとくっ付いて活性化。蛍光分子が切断されて発光する仕組みを利用した。そしてRNA分子を1分子レベルで識別できる世界最速の検出技術「SATORI法」を開発し、昨年4月に発表した。
SATORI法はマイクロチップ技術を利用したのが特徴。1センチ四方のチップ上に微小な試験管が約100万個も並んでいる。ウイルスのRNAがあるとそれぞれの微小試験管の中で発光するため、ウイルス1分子でも判定可能で、発光数を数えることでウイルス量を調べることができる。
今回研究グループは、別の種類のCRISPR-Cas13aを使い、新たな検体濃縮技術と組み合わせてウイルスの検出感度を約1400倍に高めることに成功。PCR検査と同等以上の感度に上げた。また、唾液などの検体をマイクロチップに注入するロボット機能を導入するなどして検査のすべての工程を全自動化することにも成功した。
さらに、ウイルスの塩基配列が1カ所異なっても分かるようCRISPR-Cas13aの設計を変えられる技術を導入し、変異株も検出できる装置の開発につなげた。「opn-SATORI装置」と名付けた新装置の実証実験では、陽性判定や変異株判定での正解率は98%以上、全工程の時間は9分以内だった。検査のコストは1検体あたり約2ドルでPCR検査や抗原検査とほぼ同程度で済むという。
新型コロナウイルス感染症の判定は現在、RNAを増幅して検出するPCR検査が主流だが、大量の検体を短時間に高精度で判定することは難しい。スクリーニング用には30分程度で判定できる抗原検査も使われているが、検出感度は高くない。このため、PCR検査の「感度の高さ」と抗原検査の「簡便さ」を両立させた次世代の検出法や検出装置の開発が待たれていた。
理研の渡邉主任研究員は「インフルエンザなど多くのウイルス感染症だけでなく、さまざまな生命現象に関わっているRNAを検出することで、がんなどの疾患を早期に見つけることも可能と考えている」と述べている。
一連の研究は科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(CREST)などの支援を受けて行った。研究成果は5月26日付の英科学誌「コミュニケーションズ・バイオロジー」に掲載された。
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