皮膚のかゆみの主な原因の一つは、繰り返し引っかくことで神経に特定のタンパク質が増え、神経の活動を高めるためであることが分かった。九州大学などの国際研究グループが発表した。かゆみの治療薬の開発につながる期待があるという。
かゆいと感じるところを数回ほど引っかくと大抵、かゆみは治まる。ダニなどの異物を除くための自己防衛反応とみられている。しかしアトピー性皮膚炎や接触皮膚炎などに伴う慢性的な強いかゆみでは、繰り返し引っかいて皮膚の炎症が悪化し、かゆみがさらに増してしまう。この「かゆみと掻破(そうは)の悪循環」が起こる仕組みは、よく分かっていなかった。
そこで研究グループは、アトピー性皮膚炎や、かぶれを起こす薬を塗った接触皮膚炎のマウスを使い実験した。その結果、繰り返し皮膚を引っかくこれらのマウスでは、皮膚のかゆみの信号を脳へ送る脊髄神経「かゆみ伝達神経」の活動が高まることが分かった。また爪を切って皮膚の引っかく刺激を抑えると、この神経の活動が高まらなかった。
さらに、皮膚を繰り返し引っかくと、皮膚と脊髄をつなぐ感覚神経が刺激されてタンパク質「NPTX2」が増え、脊髄へ運ばれ、かゆみ伝達神経の活動が高まることを発見した。NPTX2をなくしたマウスではかゆみ伝達神経の活動が低下。かゆみが3割ほど軽減した。
NPTX2は研究グループのメンバーが1996年に発見したもので、脳内でグルタミン酸受容体を集合させる働きについて先行して研究されてきた。さらに、かゆみ伝達神経でも、この受容体が関わる反応が高まっていることが分かり、NPTX2の新たな働きを突き止めた。
一連の実験から、かゆい皮膚を繰り返し引っかくと感覚神経でNPTX2が増え、それが神経を通って脊髄へ運ばれ、かゆみ伝達神経の活動が高まり、さらにかゆみを生む--という仕組みを解明した。「かゆみと掻破の悪循環」の要因はこれまで皮膚で考えられていたが、神経にもあり、NPTX2が重要な役割を担っていることが分かった。これらが相まって慢性的なかゆみになっていた。
今後はNPTX2の増加を抑えたり、作用を阻害したりする化合物が見つかれば、慢性的なかゆみの治療薬の開発につながると期待される。ただ、NPTX2はかゆみを引き起こす一方、逆に鬱病の緩和に関わるとする研究もあるという。研究グループの九州大学大学院薬学研究院、高等研究院の津田誠主幹教授(神経薬理学)は「単純にNPTX2の作用を抑えてしまうと、何か良からぬ作用が出る恐れもある。NPTX2が感覚神経で増える仕組みを解明することが、治療への応用につながるだろう」と述べている。
研究グループは九州大学、岡山大学、米ジョンズホプキンス大学で構成。成果は英科学誌「ネイチャーコミュニケーションズ」に5月2日掲載され、九州大学などが9日に発表した。
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