野村不動産は昨年9月29日に、荷主企業・物流企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を支援するための企業間共創プログラム「Techrum(テクラム)」を発表した。2022年4月にはメディア向けに各社のソリューションの効果検証が行えるPoC(概念実証)センター「習志野 PoC Hub」が公開された。習志野PoC Hubのソリューションの一部とともに、Techrumのプロジェクト担当者に聞いた同プログラムのねらいを紹介する。
Techrumは、省人化・機械化のための機器を提供するメーカーや物流システムを提供するソフトウェア会社などのパートナー企業と連携して、物流課題の抽出や課題解決のためのソリューション開発・提案し、物流に携わる企業をサポートする構想のプログラムだ。
パートナー企業の募集やデモ体験会を経て、2022年4月からは共創プログラムの本格稼働が開始。同社の物流施設「Landport習志野」の1階・4分の1区画のスペースには、各社のソリューションの効果検証が行える習志野 PoC Hubがオープンした。
倉庫環境を再現し、自社課題に合ったソリューションを検証できる
習志野 PoC Hubには、機器やソフトウェアを試用できる「ソリューション別検証エリア/ピッキング比較エリア」のほか、企業の倉庫環境などを再現しつつ自社課題に合わせて複数のソリューションを組み合わせた検証などが行える「荷主検証エリア」、ミーティングや会議などを行える「コワーキングスペース」が設けられている。
ソリューション別検証エリア/ピッキング比較エリアでは、荷物の保管やピッキング、倉庫内の搬送、棚卸し、配送物の梱包、段ボール箱の開梱・組み立てなどの省人化・自動化につながるソリューションを実際に稼働させて、メーカーの担当者から導入時の注意点や導入事例の説明を受けながら効果検証が行える。
AGV、CTUなどのロボットを活用して作業効率化
「シャトル式自動倉庫」システムは、倉庫の高さや通路幅を活用して保管効率を向上させ、入出庫作業の効率化を図るものだ。入庫時にはラック内をシャトルが前後左右、上下に動き、ラックの空きスペースにカートンを自動で搬送してくれる。出庫時には必要なカートンをピッキングステーションまで自動で搬送し、必要分の荷物をピッキングしたら、荷物が残ったカートンは再度空きスペースに自動で搬送・保管される。
AGV(無人搬送車)とRFIDリーダーを組み合わせたソリューションは、棚卸し時に使用することで作業を効率化できる。棚卸し作業者が棚間を歩いてAGVを追従させてコースを記憶させると、RFIDリーダーを取り付けたAGVが自動で走行し、RFIDを取り付けた商品を自動で読み取ることができる。AGVはテープに沿って無人走行することも可能なため、棚間にテープでラインを作ることによる、無人での棚卸しも可能だ。
このほか、所定の棚まで自走して、コンテナを取り出し、自動で搬送するCTU(コンテナ自動保管ユニット)と、商品が乗った棚ごと搬送するAGVを組み合わせたソリューションや、ピッキング作業者を棚まで誘導してタブレット端末で商品の数や種類を指示するAMR(自律走行搬送ロボット)などもTechrumには用意されている。
商品サイズに合わせて段ボール箱を作成、商品を傷つけずに開梱
メディア向け発表会では、物流現場で必ず利用される段ボール関連のソリューションも公開された。
採寸計測器と段ボール自動加工機を組み合わせたソリューションでは、配送する商品の寸法を計測して、商品サイズぴったりの段ボール箱を作成できる。自動採寸計量器と自動仕分け機を組み合わせることで、荷物を詰めた状態の段ボールのサイズと重量を測り、配送データとのデータ連携を行うことで、送り状の自動作成・貼り付け・配送会社別の仕分けも可能だ。
商品に合わない大きな箱を使用することがなくなるため、隙間を埋めるための緩衝材を詰める必要もなく、配送コストの抑制も図れる。
段ボール自動開梱機は、商品の入荷時に使用する機器だ。ローラコンベヤに商品が入った段ボール箱を投入するとサイズを認識し、箱の中身を傷つけずにロボットアームが天面をカットする。天面の一部を残してカットすることも可能だ。開発中の天面処理装置と組み合わせることで、天面の自動取り外しも可能になるという。
システムでピッキングと仕分けを省人化
伝票や指示書に基づいて商品を収集するピッキング作業では、通常、作業者が棚の間を歩き回って商品を探すため、時間がかかる。そのうえ、新人の作業者の場合、商品の場所がわからず余計に倉庫内を歩き回ってしまうこともある。
メディア向け発表会で紹介された「デジタルピッキングシステム」は、作業者がピッキングするラックをランプの点灯で示す。ランプの隣には取り出すべき商品の数が表示されていて、指定された数の商品を取り出してボタンを押すと、ランプが消えて作業完了となる。
誤った商品を取り出したり、商品の数を間違えたりするといった、商品の取り違え防止にも効果を発揮する。
仕分けの効率化では、「ゲート開閉式仕分けシステム」が公開された。同システムでは、商品のバーコードをスキャンすると該当するゲートだけが開くので、作業者は開いたゲートに商品を投入するだけで仕分けが完了する。
開いたゲートにしか商品を投入できないため、商品の入れ間違いを発生させず、仕分け後に従来行っていた検品をする必要もないため、仕分けのスピードを向上できる。
「選択肢が多すぎて、検討する時間も場所もない」を解決
入荷、保管、ピッキング、梱包、仕分け、出荷と、物流倉庫内におけるさまざまな作業に対応したソリューションをTechrumが用意する理由には、荷主企業・物流企業へのヒアリングで明らかになった現場の課題がある。
野村不動産によれば、業界内でも新設備やシステムの導入・見直しのニーズは高まっているという。だが、ベンダーやソリューションの選択肢が豊富で最適なものがわからなかったり、毎日稼働している現場に合うソリューションを検討する時間や場所がなかったりするため、なかなかDXに向けた取り組みを進めにくいのだ。
「すでにあるロボットやシステムを当社経由でレンタルするスキームも検討したが、事業環境の変化に合わせてどのように適応すればいいか、課題と対策が出せない荷主企業や物流企業も多かったため、単純な製品・サービス導入では課題を解決できないと考えた。しかし、当社にはシステムやITを活用した自動化ソリューションはなく、単独ではできることも限られるため、企業間連携のオープンイノベーションで実現しようと考えた」と野村不動産 都市開発第二事業本部 物流事業部 事業企画課長の網晃一氏は説明した。
プロジェクトの実現に向けて、パートナー企業を募る中では、物流DXの実現にあたってベンダー単独で解決できる問題は一定の範囲に限られてしまうこともわかってきたという。 「人手不足を理由に物流需要の増加に応えられなくなると、新たな倉庫を供給しても不要になってしまう恐れが生じる。そのため、当社も物流業界全体の課題解決にまで踏み込んでいくべきだと考え、プロダクトアウトではなく、課題抽出から伴走することで固有の課題を解決できるプログラムを始めた」(網氏)
Techrumでは今後、新たなPoC拠点の提供も検討しているほか、野村不動産の他物件や荷主・物流企業の現場、参画パートナー企業の自社拠点など、場所の制限なく活動できるような展開も想定しているという。