北海道大学(北大)は5月23日、低温焼成によって導電薄膜や接合に用いることが可能な銅微粒子として、短鎖脂肪酸の1つであるヘキサン酸にコーティングされた銅微粒子を酸化銅粉末からヒドラジン還元することで作成し、プリンテッドエレクトロニクス用のインク・ペースト化に成功したことを発表した。
また、この銅微粒子は比較的酸化しづらく低温で安定保存可能だが、X線回折、原子分解透過型電子顕微鏡分析により、表面にCu64O構造を有していることが明らかになったことも併せて発表された。
同成果は、北大大学院 工学研究院の米澤徹教授、同・塚本宏樹研究員、同・戸倉凜太郎大学院生らの研究チームによるもの。詳細は、英国王立化学会が刊行する材料科学に関する全般を扱うオープンアクセスジャーナル「Materials Advances」に掲載された。
これまで、プリンテッドエレクトロニクス用インク・ペーストに含まれる金属ナノ粒子には、銀が用いられてきたが、現在1gで110円程度まで価格が高騰しており、コストの面からは使いにくくなっている。そこで今回の研究では、銀についで導電性、熱伝導性が高い金属であり、プリンテッドエレクトロニクス用金属ナノ粒子に向いている銅に注目。ただし銅は空気中で酸化しやすく、小さな微粒子・ナノ粒子の場合には自然発火してしまう場合もあるため、銀とは異なり酸化防止用の表面コーティングが必要とされていた。
また、低温焼成に向けて微細な銅ナノ粒子を用いようとすれば、その分、コーティング剤としての有機分子などの量が多くなってしまい、高い導電性が得にくくなってしまうという課題があり、これまでプリンテッドエレクトロニクスではあまり使われてこなかったという。銅の表面が酸化してCu2OやCuOなどになった場合には、それらを還元して金属銅表面を露出させる操作が必要となってしまうためだという。
そこで研究チームは今回、比較的大きな粒子径を持つ銅ナノ粒子を用いて、その結晶構造・酸化状態を制御して低温焼成を目指すことを試みることにしたという。