東北大学は5月23日、カルシウムなどのアルカリ土類金属塩をリチウム(Li)イオンやナトリウム(Na)イオンを含有する電解液に添加することにより、一価カチオン(陽イオン)の溶媒和構造が改変され、LiやNa金属析出の活性化過程が制御されて、平坦な析出形態を維持できることを発見したと発表した。
同成果は、東北大 金属材料研究所(IMR)の李弘毅 特任助教、東北大大学院工学研究科の村山将来大学院生(研究当時)、東北大 IMRの市坪哲教授らの研究チームによるもの。詳細は、「Cell Reports」系列の物理学全般を扱う学術誌「Cell Reports Physical Science」に掲載された。
すでに蓄電容量が理論上の限界を迎えている炭素系負極(グラファイト)と遷移金属酸化物正極を使用したリチウムイオン電池の性能を向上をさせるには、新たな設計指針が必要とされている。特に負極に関しては、グラファイトのようなLiイオンを収納するフレーム構造になる材料を使用せず、Li原子のみで構成する金属負極を実用できれば、負極の理論容量を10倍(3862mAhg-1)に向上させることが可能だという。
しかし課題は、Li金属は析出する際に、電極表面付近の濃度・電場分布の変動を受けやすく、樹枝状結晶(デンドライト)を形成しやすいという点だという。樹枝状結晶は強度が弱く、成長中の衝突などにより電極表面から剥がれてしまう可能性があり、剥離した微細な結晶は電極間を貫通して、電池の内部短絡を引き起こすリスクがあるほか、電池容量を著しく低下させてしまうという厄介な点がある。
この問題点は、Liだけでなく、同じアルカリ金属元素で、製造コストや元素戦略の観点から近年注目されているNa金属電池にも共有しているという。デンドライト成長を抑制するための研究はこれまで、主に充放電条件、電解液の濃度の調整が大半を占めてきた。析出過程(電極表面への拡散、脱溶媒、結晶化)の反応速度(キネティックス)を積極的に制御する技術はほとんどなかったとする。
そうした中、異なる特性を持つ元素の混合がもたらす相乗効果の活用に着目し、1価カチオンと多価カチオンを併用したデュアルカチオン電池系を提案してきたのが研究チームだ。そこで今回は、Li塩やNa塩を含む電解液に、アルカリ土類金属(マグネシウムやカルシウム、バリウム)塩を添加して電析実験を行うことにしたという。