マネーフォワードシンカ、WARCなどが出資するSDFキャピタルは5月24日、スタートアップ向けデットファンド(借入の形で融資を実行するファンド)である「スタートアップ・デットファンド1号投資事業有限責任組合」を設立し、5月20日に1stクロージングしたと明らかにした。同日、都内で記者説明会を開催した。なお、同ファンドはスタートアップのみを対象にした独立系のデットファンドという点において、日本初のファンドとなる。

  • 左からSDFキャピタル 社外取締役の光井香織氏(マネーフォワードシンカ ディレクター)、紀陽銀行 取締役上席執行役員営業推進本部長の丸岡範夫氏、SDFキャピタル 代表の福田拓実氏、同 社外取締役の石倉壱彦氏(WARC 共同創業者 取締役)

    左からSDFキャピタル 社外取締役の光井香織氏(マネーフォワードシンカ ディレクター)、紀陽銀行 取締役上席執行役員営業推進本部長の丸岡範夫氏、SDFキャピタル 代表の福田拓実氏、同 社外取締役の石倉壱彦氏(WARC 共同創業者 取締役)

スタートアップのニーズに応えるファンド

同ファンドは、SDFキャピタル 代表の福田拓実氏が直近数年間、独立系プライベートデットファンドの中で多数のスタートアップへのデットファイナンスを実行するにあたり得た知見と経験を活かして、エクイティ(株式を発行して資金を調達すること)投資と銀行融資の間を埋める資金調達手段を提供し、国内スタートアップの成長・発展に貢献していくという。

また、スタートアップのみを対象にした独立系のデットファンドという点において、日本初のファンド。「スタートアップの資金調達に多様な選択肢を」をミッションに、既存のスタートアップエコシステム機能ではリーチできなかった資金調達需要に対応しスタートアップの成長や発展に貢献していく。

福田氏は2014年から7年間、日本のデットファンド企業に勤めていた。同氏は国内スタートアップ専門のデットファンドに行き着いた経緯について「日本のスタートアップからエクイティ(株式)ではなく、デット(借入)をしたいという要望が多くあった。これは株式の希薄化を防ぎたいほか、次の増資までの資金繰りのつなぎ、成長のために先行投資したいというニーズなどで、ベンチャーキャピタル中心の株式調達や金融機関の借入だけでは対応できなニーズが多数あることを把握した」と説明。

  • ファンド立ち上げの趣旨と基本コンセプトの概要

    ファンド立ち上げの趣旨と基本コンセプトの概要

日本におけるユニコーン企業数は11社、企業価値総額153億ドルである一方、例えば米国では488社、1兆6425億ドルと、企業数・企業価値の面でアメリカをはじめとした諸外国との差が開いている。

そうした状況の中で、経済団体連合会が2022年3月に公表した「スタートアップ躍進ビジョン」においては、スタートアップエコシステム「エクイティの柔軟な活用が可能な制度の整備」「ベンチャーデット産業の整備・促進」などのファイナンスに関するアクションについて言及がなされている。

さらに、経済産業省も同年4月に「スタートアップの成長に向けたファイナンスに関するガイダンス」を発表するなど、国内スタートアップの成長促進に必要な要素の1つとしてファイナンスが重要視されている。

国内スタートアップの資金調達の基本とされるエクイティ調達は、2021年において前年比46%の7801億円にのぼり、そのほかの資金調達手段として日本政策金融公庫の創業融資(2020年実績:2477億円)や金融機関からの借入があるが、低コストでの一時的な資金調達や赤字継続などで金融機関からの借入が難しいタイミングでの成長のための先行投資など、既存手法では満たせない資金調達ニーズがあるという。

これに応えるため、日本のプライベートデット市場のパイオニアとなるファンドの中でスタートアップへの融資を担当していたSDFキャピタルの福田氏が起業し、エクイティ調達ではない資金調達を担うべく同ファンドを設立した。

エクイティ調達の補完としてのデット調達

スタートアップ向けのデット調達は、欧米では直近のエクイティラウンドの20~35%程度の調達額にのぼり、エクイティ調達の補完としての役割が期待され、米国では約900億ユーロ、欧州で約210億ユーロの市場規模(2018年)を形成しており、今後は日本でも注視される分野となっている。

同ファンドでは、2022年5月20日にスタートアップ・デットファンド1 号投資事業有限責任組合の1stクロージングを行い、出資者は紀陽銀行、マネーフォワード、他数社。2023年春ごろをめどにFinalクロージング(累計で最大50億円)を目指しており、ファンドが担う融資機会は2000億円前後を想定している。想定投資家は金融機関、事業会社、学校法人など。

  • ファンドのチーム概要

    ファンドのチーム概要

投資方針としては、IRR(Internal Rate of Return:内部収益率)は1案件あたり10%以上を目標とし、金利は3~15%、新株予約権や株式転換権の取得も検討しており、担保については有担保、無担保双方について対応するとともに、連帯保証は個別検討していく。

また、パターン別では(1)成長企業への増加運転資金、(2)次回調達ラウンドまでのブリッジファイナンス、(3)一時的な業績低迷によるブリッジファイナンス、(4)創業者などによる株式買取資金となる。

  • パターン別の投資方針の概要

    パターン別の投資方針の概要

福田氏は「成長企業への増加運転資金と次回調達ラウンドまでのブリッジファイナンスを中心にファンド運営を考えている」と述べていた。