KDDI総合研究所は5月23日、「Cell-Free massive MIMO技術」において、局舎に分散配置された基地局の無線信号処理機能(CPU)を連携させて干渉抑制効果と無線信号処理の計算量の削減を両立する「CPU間連携技術」を考案し、エンド・ツー・エンド通信の実証実験に成功したことを発表した。
Cell-Free massive MIMO技術とは、複数の基地局アンテナを連携させ個々のユーザーに対する無線信号の品質を最適化する基地局構成技術だ。今回の実証の成功により、同技術の大規模展開においても通信速度の維持と消費電力低減との両立が可能になると考えられ、Beyond 5G/6G時代の次世代ネットワークアーキテクチャとしての活用が期待される。
従来の5Gまでの通信システムでは、基地局を中心にサービス提供可能なエリアが決まる「セルラーアーキテクチャ」が採用されており、ユーザーの利用場所や時間によっては隣接する基地局との間で生じる干渉の影響があり、必ずしも最適な通信品質を提供できない課題が見られる。
こうした課題に対して、同社は多数の基地局アンテナを分散配置し、これらのアンテナを連携させることで干渉を抑えるCell-Free massive MIMO技術の開発が進められている。同技術は同じ局舎にある無線信号処理機能に接続する基地局(AP)を連携し、干渉の抑制が可能なのだという。
一方で、現状の5Gでは局舎間の干渉を抑制する既存の無線信号処理機能間の連携技術として、APと端末間の伝搬状態を推定して干渉抑制を行うCoordinated Beamforming技術が使用されている。Cell-Free massive MIMO技術にCoordinated Beamforming技術を適用する場合には、分散配置された全てのAPと端末間で無線信号処理機能において伝搬状態の推定と干渉抑制の計算を行う必要があり、膨大な無線信号処理の計算量が課題となる。
そこで同社は、ユーザー端末の移動などにより変化するAPと端末の無線状態の測定を行い、干渉抑制の効果が大きいAPからの無線信号のみを選択するような制御を加えることで、干渉抑制効果と信号処理の計算量の削減を両立するCPU間連携技術を新たに考案したという。
今回の実証実験は「2つの局舎に設置したサーバに、それぞれ2つのAPおよび1つの端末を接続」「同一サーバに接続する2つのAPで無線信号処理を一括して行い、端末に対してデータ通信を行う」という2つの無線通信環境で実施した。
この環境において、1つの端末をもう1つの端末に近づけて徐々に干渉が発生する状況を作り、CPU間連携技術の有無での通信速度の評価を行ったところ、CPU間連携技術を用いない場合は干渉で通信速度が低下する一方で、同技術を用いた場合は強い干渉を与えるAPを選択して干渉を抑制することで速い通信を維持できたとしている。
また、大規模展開を想定した計算機シミュレーションの結果により、既存のCoordinated Beamforming技術と比較して、CPU間連携技術では無線信号処理の計算量を4分の1に削減できることも確認している。計算量の削減により必要なサーバ台数も削減できるため、無線信号処理に関わる消費電力も低減され得るのだという。