東京大学(東大)は5月18日、同大学木曽観測所の105cmシュミット望遠鏡に搭載された可視光高速動画カメラ「Tomo-e Gozen」(トモエゴゼン)と、国際宇宙ステーション(ISS)に搭載されたNASAのX線望遠鏡「NICER」(ナイサー)を用いて、代表的な矮新星として知られる「はくちょう座SS星」(SS Cyg)に対してサブ秒分解能の高速同時観測を実施した結果、同矮新星の可視光とX線の明るさの時間変動に高い相関関係があることを発見したと発表した。

  • SS Cygのイメージ

    SS Cygのイメージ。SS Cygは中心の白色矮星、周りを取り巻く降着円盤、円盤にガスを供給する伴星で構成される。中心近傍の高温ガスからX線、降着円盤と伴星から可視光が放射されている。また、円盤と伴星は高温ガスから放射されたX線に加熱され、可視光を再放射する。結果として、X線と可視光の変動がほぼ同期する (C)東京大学木曽観測所 (出所:東大Webサイト)

同成果は、東大大学院 理学系研究科の西野耀平大学院生、同・酒向重行准教授、理化学研究所開拓研究本部の木邑真理子基礎科学特別研究員らの研究チームによるもの。詳細は、日本天文学会が刊行する欧文学術誌「Publications of the Astronomical Society of Japan」に掲載された。

ブラックホールや原始星など、数多くの天体の周囲に存在する降着円盤から、ガスなどの物質は突発的に中心星に降着するため、円盤の明るさは時間変化することが知られている。しかし、突発的な降着が起こるメカニズムはまだよくわかっておらず、その謎を解き明かすためには、降着円盤から放出される多波長域の光を同時に観測することが必要とされている。

今回、降着円盤の観測をするためにターゲットとされたSS Cygは、白色矮星と通常の恒星(伴星)からなる近接連星系の矮新星で、白色矮星の周囲に降着円盤が存在することが知られている。1か月程度の周期で増光期と静穏期を繰り返し、X線から可視光まで幅広い波長帯域で明るいのが特徴だという。

2019年8月以降、1年以上にもわたり静穏期の明るさが可視光で2.5倍、X線で10倍高い状態が続き、SS Cygの100年以上におよぶ長い観測の歴史の中でも初めての状況となった。この増光により高いS/N比が期待できることから、研究チームは降着円盤天体について新たな知見が得られると考察。Tomo-e GozenとNICERを組み合わせた高速同時観測を2020年9月から11月にかけて実施することにしたという。

  • Tomo-e Gozen

    (左)Tomo-e Gozen。84枚のCMOSイメージセンサーにより2フレーム毎秒で20平方度の視野の動画を取得可能 (C)東京大学木曽観測所 (出所:Tomo-e Gozen公式Webサイト)、(右)ISSで稼働中のNICERのイメージイラスト(画像中央の円柱が敷き詰められた箱型の装置)。比較的エネルギーの低い軟X線に高い感度を持ち、高い時間分解能での観測が可能 (C)NASA's Goddard Space Flight Center(出所:NASA Webサイト)