仮想世界で交流する「メタバース」が注目されている。メタバースの世界に入るにはディスプレイが重要な役目を果たし、新たな機能や性能向上の開発も精力的に行われている。その状況をディスプレイの国際会議「SID(The Society for Information Display)」と関連イベント「Display Week 2022」で目の当たりにすることができる。さらには、Display Weekの2週間前に台湾で開催された「Touch Taiwan 2022」でも、パネルメーカー各社が積極的な展示を行っていた。
今後の期待されるディスプレイ技術にマイクロLEDがある。マイクロLEDは、これまでのディスプレイ表示性能を飛躍的に向上させ、メタバースの世界に向けてさまざまな機器に搭載される可能性を持っている。期待されるアプリケーションは、AR/MRグラス、車載用のAR-HUD(ヘッドアップディスプレイ)などがまず挙げられる。さらには、マイクロLEDを広く一般消費者向けに普及させると期待されているスマートウォッチもある。
AR/MR用の超小型マイクロLED
ARグラスやMRグラスでは、現実世界に仮想の映像を重ねて映し出すディスプレイが必要である。明るい現実世界の中に映像を重ねるために高い輝度が求められ、そのために有望視されているのがマイクロLEDである。
GAFAMなど世界の名だたるIT企業がARグラスやMRグラスの実用化に乗り出すというニュースや、それに向けたマイクロLED企業の動向に関するニュースに事欠かない。AR/MRグラス用の超小型マイクロLEDを開発する企業は数多く出てきている。その中でも積極的にアピールしていたのが、台湾のPlayNitrideである(図1)。世界最高の解像度と謳う4536ppiを0.49型で実現している。
ARの世界を車でも実現するAR-HUD
ARグラスの概念を車載の運転席に持ち込んだのがAR-HUDである。運転中の前方視野の中に、運転に必要な情報を映し出す。太陽光の明るい屋外で使用するために高い輝度が求められる。Display Week 2022 展示会場では、Nanosysが積極的にアピールしていた(図2)。
マイクロLEDの実用化に向けて期待されるスマートウォッチ
アップルがスマートウォッチ向けに台湾でマイクロLEDを開発している、という噂が数年前に流れ、この噂がマイクロLEDを世の中に広く認知させたと言っても良い。Touch Taiwan展示会では、AUO、Innolux、PlayNitrideがスマートウォッチ用のマイクロLEDを展示し、続くDisplay Week展示会でも同品を出展した(図3)。スマートウォッチ向けの分野では台湾勢が先行しており、業界でも早期の実用化が期待されている。
空間ディスプレイを目指す透明マイクロLED
メタバースの世界では透明ディスプレイによる空間映像も期待される。例えば、車の後部座席の窓に透明ディスプレイを設置すれば、外の景色を背景にしながら、窓に映像を浮かび上がらせることも可能になる(図4の右側)。明るい景色を背景にするための高輝度表示と外の景色を邪魔しない高透過率が求められ、ここでもマイクロLEDが有望視されている。
マイクロLEDディスプレイは、従来のLCDやOLEDが作り上げたアプリケーション分野をすべてカバーでき、かつより高い表示性能を発揮する可能性が期待されている。課題としては、製造方法の確立と低コスト化が当初から指摘され、世界中の企業がこの課題にチャレンジしている。ここ数年間の展示会や学会などでの発表を見ていると、多くの参入企業による競争によって少しずつではあるが着実に進歩していることが感じられる。ARグラスやスマートウオッチの様な一般消費者向けの製品に搭載されて出回るようになれば爆発的に伸びていくと期待されており、その時期が間近であることが今回のTouch TaiwanやDisplay Weekでの活況な様子から感じ取ることができる。