コロナ禍を機に、多くの企業が次々にオンライン会議ツールやグループウエアを導入した。これをきっかけに、ITツールへの投資は近年さらに勢いを増している。一方で、ITツールを導入したは良いものの、その効果をしっかりと分析できている企業は多くないと言われている。もっとも、企業は効果測定をしたくないのではなく、“したいけれど難しい”のが現状だろう。では、どうすればうまくITツール導入による効果の測定を行えるのだろうか。

4月21日に開催された「TECH+セミナー セールステック Day 2022 Apr.お客様を主語にセールスをアップデート」に、グッド・ニュースアンドカンパニーズ 代表取締役で、因果関係分析やIR分析を用いて企業へのアドバイスを行っているエコノミストの崔真淑氏が登壇。ITツール導入の効果を見える化するメソッドについて解説した。

企業の多くが感じる「効果測定の難しさ」

そもそも、企業はどのくらいITツールの効果測定をしているものなのだろうか。経済産業省のデータでは、効果測定を全く実施していない企業が約4割、何らかの効果測定を実施している企業が約6割と示されている。つまり、ITツールの効果測定の必要性を感じている企業はそれなりに多いというわけだ。

  • 企業におけるITツール効果測定の現状/出典:「情報処理実態調査平成28年度」(経済産業省)

では、逆に全く効果測定をしていない企業はなぜ行っていないのか。崔氏はその理由として、稼働開始の作業に追われて事後評価の準備にまで手が回らないこと、効果測定の定量化ができていないこと、システム導入の責任が不明瞭であること、効果測定を行っても人事評価につながらないことなどを挙げる。

効果測定の必要性は感じているが、さまざまな事情により実施できていない企業が多いということは、すなわちITツールを提供する事業者にとって「効果測定メソッドの提供」が付加価値になり得ることを意味している。

「導入前」の検証:手軽な方法と留意点

そこで崔氏はまず、ITツールを導入する前のタイミングでの検証方法について説明した。

崔氏曰く、「最も簡易な検証手法は、ITツールの導入によって得られるだろう効果額と投資額を比較すること」だ。前者には、売上高やROAといった財務関連指標はもちろんのこと、営業のアポイント回数や問い合わせ件数、会議の削減数といった非財務関連指標も含まれる。一方、後者の投資額とはITツールの導入初期費用にランニングコストなども含めた数字となる。つまり、ITツールへの投資額よりも、ITツールによって得られる効果額が大きければ、ITツールを導入する価値があると判断できることになる。

ただし、この手法には注意点があると崔氏は言う。

「ITツールと言ってもさまざまです。インフラもあればHRテックもありますし、社内コミュニケーションツールもITツールです。ツールによっては、効果が得られるまで長くかかる場合もあります。1~2年ではペイせず、5~10年かかることもあるでしょう」(崔氏)

その場合に必要となるのがファイナンスの考え方である。ITツールによって将来得られると期待できるキャッシュフローを現在価値に試算した値から初期投資額を引いた値を「正味現在価値」と呼び、この数値が0を超えた場合には投資する価値があると判断するのだ。

もちろん、実際の計算には専門的な知識が必要になる。だが、少なくともITツールの提案を行う際に、このような効果測定方法の説明ができるだけでも「クライアントを安心させられる」のだと崔氏は述べた。