日本電信電話(NTT)は5月17日、光・無線伝搬を統合した無線空間再現技術の実証実験を開始したことを発表した。同社によればこの実証実験は世界初だという。
無線通信システムに要求される品質(大容量、低遅延、高信頼など)や利用シナリオの多様化が予想されるなか、今後は無線通信デバイスや利用シナリオに応じた膨大な検証データの取得が鍵となり、検証時間の削減が重要なファクターとなる。既存の検証方法のひとつに特定の無線空間における無線通信デバイスの性能検証を目的としたOTA試験があるが、OTA試験ではデバイス自体の物理的な動きに対する無線空間の変化の再現や、多様な利用シナリオの再現に課題があった。
NTT研究所では、屋外・屋内といった現在の無線通信の利用環境や、空・宇宙といった未踏領域の環境における到来方向・利得・フェージングの無線特性を把握し、その無線空間を時間変動も含めて検証環境に再現する無線空間再現技術を新たに提案している。
無線空間再現技術は、(1)光伝搬を活用した無線伝搬モデル推定、(2)無線空間再現用シミュレーション、(3)無線特性可変装置の協調制御──という3つの要素技術で構成される。
(1)では3Dプリンタ等で利用シナリオのミニチュアモデルを精密に作製するとともに、光を無線と見立てて可視化する技術で、免許が必須となる無線による測定を行うことなく減衰などの伝搬モデルの推定を簡易に行える。
(2)は再現する無線空間に配置されたメタサーフェス反射板(RIS)、スマートリピータ、分散アンテナなどの電波特性を変化させる装置(無線特性可変装置)の制御を行い、再現対象の無線空間と再現する無線空間の2つの空間を結び付ける新しい概念の伝搬シミュレーションを実施する。
(3)は、NTT研究所で検討しているリアルタイムRIS制御技術を応用し、検証環境に複数設置した電波特性可変装置に対して(2)の無線空間再現用シミュレーションで算出した制御パラメータを反映させ、到来方向・利得・フェージングなどの無線伝搬特性を制御することができるという。
今後は、屋内環境の無線空間再現を最初の利用シナリオとして位置づけ、この技術の実証実験を進めるという。さらに、無線特性可変装置や制御の高度化により、複数無線システムの同時利用など複雑な検証が求められる利用シナリオの再現に取り組むとしている。なお、同技術の内容は、年5月18日~19日に開催される「つくばフォーラム2022」にて展示予定だということだ。