米IBMは5月10日(現地時間)、大規模で実用的な量子コンピューティングの実現に向け、ロードマップの拡充を発表した。新たなロードマップでは、IBMの量子システムの量子ビット数を最大数十万ビットに拡大するため、個々が接続可能なモジュール式のアーキテクチャ計画の詳細を説明している。
IBMは、実用的な量子コンピューティングの時代に向けて「堅牢でスケーラブルな量子ハードウェア」「アクセス可能で強力な量子プログラムを実現する最先端の量子ソフトウェア」「量子コンピューティングに対応した組織やコミュニティによる幅広いグローバルなエコシステム」の3つを柱とし、取り組んでいる。
同社では、2020年に最初の量子ロードマップを発表して以降、ロードマップのタイムラインで示してきた各目標を達成してきた。達成した目標の一例として、古典的なコンピューターでは正確にシミュレーションが不可能な量子回路を備えた127量子ビットのプロセッサである「IBM Eagle」が含まれる。
同社のコンテナ型量子コンピューティングサービス、プログラミングモデルである「Qiskit Runtime」を用いた分子シミュレーション能力において、2017年の先行実験と比較して120倍の高速化を実現しているという。2022年後半には、策定したロードマップ上の目標を継続し、433量子ビットのプロセッサ「IBM Osprey」の発表を予定している。
2023年に同社はQiskit Runtimeとクラウド上に組み込まれたワークフローにより、フリクションレス(摩擦のない)な開発体験を構築するという目標を進展させ、コア量子ソフトウェアスタックコアにサーバレスアプローチを導入し、開発者に簡便性と柔軟性を提供するという。
このサーバーレスアプローチは、量子システムと古典システムの間で、問題をインテリジェントかつ効率的に分散処理させるための重要なステップとなり、ハードウェアの面では1000量子ビット超の世界初のユニバーサル量子プロセッサ「IBM Condor」の発表を予定。
新しいロードマップでは、IBMは量子プロセッサのスケーラビリティについて、3つの領域をターゲットにしている。
1つ目は、複数のプロセッサ間で古典領域での通信と並列処理を行う機能を構築すること。従来の計算リソースとサイズを拡張できる量子プロセッサを組み合わせることで、エラー緩和技術の向上やインテリジェントなワークロードのオーケストレーションなど、実用的な量子システムに必要な広範囲な技術へつながるからだという。
2つ目のステップは、短距離のチップ間接続の導入。これは、複数のチップを緊密に接続して、単一のより大規模なプロセッサを効率的に形成するもので、スケーリングの鍵となる基本的なモジュール性を導入するものとなる。
そして、3つ目は量子プロセッサ間の量子通信リンクの提供。そのために同社は、クラスタを大きな量子システムに接続するための量子通信リンクを提案している。これら3つの拡張技術を活用し、2025年にモジュール式に拡張されたプロセッサの複数クラスタで構築された4000量子ビット以上のプロセッサの実現を目指す。
また、ハードウェアのブレークスルーと並び、エラーの抑止と緩和を向上させるソフトウェア面でのマイルストーンを目標としている。これらの技術の活用で現在進んでいることは、ユーザーのアプリケーションに対するノイズの影響を最小限に抑え、量子ソフトウェアの性能を向上させるとともには誤り訂正を持たせる。
今年初めに同社は、アルゴリズムで使用される一般的な量子ハードウェアクエリを使いやすいインタフェースにカプセル化するQiskit Runtimeのプリミティブを発表。2023年には、これらのプリミティブを拡張し、開発者が並列化された量子プロセッサ上でそれらを実行できるようにすることで、ユーザーアプリケーションの高速化を計画している。
新しい量子ロードマップで示されたシステムは、IBM Quantum System Two内で稼働するように設計されており、テクノロジースタックの全階層に組み込むことで、複数の量子プロセッサを正しく接続させるために必要なインフラストラクチャを提供するという。このシステムのプロトタイプは、2023年の稼働開始を目標としている。
IBMは量子力学の時代において顧客のデータを保護するために設計された暗号技術とコンサルティングの専門知識からなるIBM Quantum Safeポートフォリオを近く発表を予定している。
これは、新しい量子安全暗号化の違いや組織への影響を理解するための教育を提供し、セキュリティの専門家や責任者のために設計されたIBM Quantum Safe Awarenessサービスによる、次世代量子安全暗号化への移行のための戦略的洞察を定期的に提供する。
また、IBM Quantum Safe Scope Garageのワークショップを通じ、IBMコンサルティングによる戦略的ガイダンスを提供。同プログラムは、組織ごとのリスクやIT戦略、サプライチェーンの依存関係、エコシステムの運用に合わせた、量子安全への取り組みに優先順位をつけるための最初のステップとなる、ガイダンスと教育を提供するものとなる。
さらに、リスク評価と発見を自動化し、暗号インベントリ、依存関係、セキュリティポスチャを確立し、例えばTSSのzSystemテクニカルービスでは、zSystem Quantum Safe Assessmentを提供し、量子ベースの暗号攻撃に対するエクスポージャーを迅速に把握することができるという。
アジャイル暗号および量子安全暗号への移行により、暗号サービスなど、最新かつ柔軟なパラダイムを実現。例えば、同社ではすでにアジャイル暗号と量子安全暗号を実装して、同社初の量子安全メインフレームシステムであるz16を構築し、量子安全暗号を採用している。