若者を中心に絶大な人気を誇るファッションフェスタ「東京ガールズコレクション(以下、TGC)」。2019年にはさいたまスーパーアリーナや横浜アリーナなど全国6カ所の会場で開催され、年間で延べ約10万人以上が来場した大型イベントだ。

しかし、新型コロナウイルスの流行により、TGCはイベントの在り方そのものの変化を迫られた。手探り状態の中、2020年2月には無観客で開催、続く3回はオンライン配信で実施し、2021年9月の開催時にはメタバースアプリ「バーチャルTGC」のベータ版をリリース。リアルとバーチャルのハイブリッド開催に舵を切ったことで注目を集めた。

半年後の2022年3月には同アプリを本格ローンチし、TGCは今もさらなる進化を遂げている。彼らはなぜメタバースを導入したのか、そしてどんな未来を描いているのか。TGCを運営するW TOKYO 上席執行役員 辻本優一氏にお話を伺った。

  • W TOKYO 上席執行役員 辻本優一氏

課題は「費用」と「開発体制」- メタバース導入に向けた試行錯誤

無観客開催となった2020年のマイナビ TGC 2020 SPRING/SUMMERではLINE LIVEでの生配信を行うなど、「TGCは新たなツールを積極的に取り入れることに長けている」と辻本氏は胸を張る。コロナ禍でイベント開催が制限されるようになった際も、バーチャル空間のアイデアは比較的早い段階から出ており、イベントに直接参加しなくてもTGCを楽しめる方法はないか検討していたという。そこにちょうどはまったのが、少しずつトレンドに上がり始めていたメタバースだった。

流行を発信するイベントだからこそ、最先端のツールを使ってみようという思いに加え、5G技術などの環境面も整いつつあったことから、導入に向けて本格的な取り組みが始まった。コンセプトは“リアルより楽しいかもしれない”。着想段階から、リアルで開催してきたTGCをそのままメタバースに移すつもりは毛頭なかった。

「リアルコンテンツの延長線上ではなく、バーチャル上で全く新しい価値体験を提供したいという考えの下に、計画を進めました」(辻本氏)

導入を進める上で課題となったのは費用面と体制だ。メタバース開発のための予算を用意していなかったため、費用の工面をどうするのかが問題となったのである。社内で検討を重ねた結果、経済産業省からの補助金を開発費の一部に充てることで費用面の課題は解決に至った。体制面では自社でどこまでやるのか、メタバースに携わる人員リソースは確保できるのかといった点が懸念された。最終的にはIMAGICA EEXと提携し、W TOKYOは企画のディレクションやコンテンツ制作に専念、メタバース開発はIMAGICA EEXに任せるというかたちに落ち着いたという。

「(W TOKYOは)テクノロジーの企業ではないので、開発は外部にお任せしました。逆に、自社で(技術面に)詳しい人がいない分、技術的に可能かどうかよりも、バーチャル空間でどんなことを実現するのか、アイデアベースでの発想ができた点は良かったと思います」(辻本氏)

一方で「少し心残りだった点もある」と、辻本氏は言う。一般的なメタバースはPC版とスマホ版の両方で展開する場合が多い。しかし、バーチャルTGCはターゲット層のライフスタイルを考慮し、あえてスマホ版のみでリリースすることに決定したのである。スマホ版では容量の違いなどから入れ込める情報に制限があり、残念ながら日の目を見なかったコンテンツもあるそうだ。

こうした試行錯誤を繰り返し、バーチャルTGCは2021年9月にベータ版としてリリースされたのである。