筑波大学 医学医療系の笹原信一郎 准教授と森林総合研究所(森林総研)森林管理研究領域の森田えみ 主任研究員らの研究チームは、筑波研究学園都市内の研究者などの労働者を対象にストレス対処力の研究を行い、森林散策や緑地散歩などの森林浴習慣の頻度が高いほど、ストレス対処力が統計的に有意に高いことを明らかにした。
研究の詳細は学術誌「Public Health in Practice」に掲載されている。
労働者のメンタルヘルス対策において重要なのは、不調を訴える前に予防することであるとされている。その中で、ストレスに柔軟に対処できる「ストレス対処力」が、良好なメンタルヘルスを保つ上で必要とされ、これまで労働者のストレス対処力と生活習慣の関連性を扱った研究が多くなされてきた。
また、数時間での森林浴でもリフレッシュ効果が得られるなどの報告も多く、森林浴への関心が世界的に高まっている。しかし、習慣的な森林浴とストレス対処力との直接的な関連は明らかになっておらず、研究チームが検討を行った。
茨城県つくば市の労働者を対象として、筑波研究学園都市交流協議会労働衛生専門委員会が2017年に実施した「第7回生活環境・職場ストレス調査」(無記名自記式ウェブ調査)のデータを二次利用し、20~59歳の男性3,965人、女性2,501人(計6,466⼈、平均年齢42.7歳)について解析を行った。
ストレス対処力は日本版SOC尺度(sence of coherence:首尾一貫感覚※1)を用いて測定し、森林浴習慣については「森林散策(ハイキング、自然観察、山歩き、山仕事、山中キャンプを含み、都市公園に行くは除く)には、どのくらいの頻度で行きますか」、また緑地散歩習慣に関しては「緑地(森林を除く都市公園など)には、どのくらいの頻度で行きますか」という質問を行った。
SOC総得点の平均値と標準偏差から、対象者を低SOC群、中SOC群、高SOC群に分類し、森林散策および緑地散歩の頻度とSOC値の関連を調べた。
その結果、森林散策の頻度は、週1回以上が2.4%、月1回~3回が11.8%、年1回~数回が41.8%、ほとんど行かないが44.1%であった。
緑地散歩の頻度は、週1回以上が16.9%、月1回~3回が30.3%、年1回~数回が28.7%、ほとんど行かないが24.0%であった。また、SOC値との関連を検討すると、森林散策や緑地散歩の頻度が高いほど高SOC群となるオッズ比有意に高く(ストレス対処力が高い)、これは、年齢や最終学歴、世帯年収、婚姻状況、居住地といった個人的特性や、運動、喫煙といった他の生活習慣の影響を考慮しても同様の傾向が示された。
これらの結果から、森林浴や緑地散歩の頻度が高いほどストレス対処力が高いことが確認されたとしている。
研究チームは今後、自然環境との触れ合いがストレス対処力をいかに高めるかについて追跡調査を実施し、森林浴習慣によるストレス対処力への長期的な効果を明らかにすることが重要だとした。
文中注釈
※1:困難な状況を明確に受けとめられる感覚(把握可能感)・辛いことでもなんとかなると思える感覚(処理可能感)・辛いことに対して意味を見いだせる感覚(有意味感)から構成され、総得点が高いほどストレス対処力が高いとされる