新潟大学は5月10日、子宮頸がんなどの原因ウイルスとして知られる高リスク型「ヒトパピローマウイルス(HPV)」の感染に対し、HPVワクチンがどの程度長期の予防効果を示すのか検討したところ、接種から約9年が経過した25歳時点での高リスク型HPV16/18型の感染者を認めておらず、長期の予防効果が実証されたことを発表した。
同成果は、新潟大大学院 医歯学総合研究科 産科婦人科学分野の黒澤めぐみ医師(大学院生)、同・榎本隆之特任教授、同・関根正幸准教授らの研究チームによるもの。詳細は、日本癌学会のがん研究を題材にした学術誌「Cancer Science」に掲載された。
HPVは、パピローマウイルス科に属し、これまで200種以上のタイプが同定されており、発がんに関与する能力により高リスク型と低リスク型に分類されている。代表的な高リスク型には、HPV16/18/31/33/35/39/45/51/52/56/58/59/68型があり、中でもHPV16/18型で全世界の子宮頸がんの約70%を占めている。
日本でHPVワクチン接種の公費助成が開始された2010年時点で接種対象年齢であった女性は、現在、20歳代の半ばを迎えている。研究チームはこれまでの研究により、20歳代半ば(23~26歳)は性的活動が高まることで、高リスク型HPVの感染率がピークに達する時期であることを報告している。
また、HPVワクチンの接種を受けた20~22歳の女性において、HPV16/18型感染に対する高い有効性と、HPV31/45/52型に対するクロスプロテクション効果(標的以外のウイルスにも感染予防効果を発揮すること)が認められることも報告済みである。
しかし、これまで25歳以降の女性における長期的な有効性に関する日本からの報告はなかったことから、今回の研究では、HPVワクチン接種から約9年が経過した25歳時点における長期の感染予防効果を検証することにしたとする。
解析対象は、1993~94年に出生し、2019年4月~20年3月に新潟市内で子宮頸がん検診とHPV検査を受けた25~26歳の女性429例で、HPVワクチン接種歴と性的活動性(初回性交年齢、性交経験人数)は質問票を用いて調査し、接種歴については自治体の接種記録も確認が行われた。
対象のうち150例(35.0%)にHPVワクチンの接種歴があり(ワクチン接種群)、279例(65.0%)は接種歴がなかった(ワクチン非接種群)。HPVワクチン接種からHPV検査までの平均期間は102.7カ月(8.6年)、中央値は103カ月(範囲92~109カ月)で、ワクチン接種群と非接種群で初回性交年齢および過去の性交経験人数に有意差はなかったという。
ワクチン接種群とワクチン非接種群におけるHPV感染率を比較した結果では、高リスク型HPVのうち2価ワクチンが標的とする16/18型の感染率は、ワクチン非接種群の5.4%に対してワクチン接種群では0%と有意に低く(P=0.0018)、ワクチンの有効率は100%であることが示されたとする。
また、HPV31/45/52型の感染率も、ワクチン非接種群の10.0%に対してワクチン接種群では3.3%と有意に低く(P=0.013)、有効率は69.0%とクロスプロテクション効果も持続していることが示されたともする。
今回の研究により、実臨床データを用いて、ワクチン接種から9年が経過した25~26歳の日本人女性において、HPV感染に対する2価ワクチンの長期の有効性が日本で初めて実証されることとなり、研究チームでは、25歳時点でもワクチンによるHPV感染に対する持続予防効果が確認されたことは、ワクチンを接種した女性に対しての朗報になるとする。
厚生労働省も今回の研究成果などをもとに、2022年4月より12~16歳の女子に対するHPVワクチン接種の積極的勧奨を再開している一方で、ワクチン積極的勧奨の中止以降に接種機会を逃した世代は現在20歳代となり、性的活動性が最も高まる年齢に到達していることから、研究チームでは、まだHPVワクチンの接種を受けていない女性に対しては、このような科学的根拠をもとに、ワクチンの効果をアピールしていく必要があるとしている。
また、HPVワクチンの接種を受けた女性に対しては、「ワクチンのHPV感染予防効果は25歳になると消失するわけではないが、ワクチンを接種した女性でも子宮頸がん検診は必ず受ける必要がある」というメッセージを伝えていくことも必要だとしているほか、今後、2014年より進めているHPVワクチンの有効性と安全性の評価のための大規模疫学研究「NIIGATA study」にて、25歳時点での子宮頸部前がん病変の発症予防に対する有効性と、30歳時点でのさらなる長期効果の解析を継続し、広く発信を続けていくとしている。