量子科学技術研究開発機構(量研機構)は、ハトの網膜細胞内に存在するタンパク質「ISCA1」が、磁場の強度に応じて長さの異なる柱状になる性質を持つこと、その柱状のISCA1が網膜細胞内の別の磁場感知タンパク質「CRY」と結合し整列することで、磁場情報を方位の情報などに変換していることを明らかにしたと発表した。

同成果は、量研機構 量子生命・医学部門 量子生命科学研究所 タンパク質機能解析研究チームの新井栄揮上席研究員、同・清水瑠美主任技術員、同・安達基泰チームリーダー、群馬大学大学院 理工学府の平井光博名誉教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、タンパク質学会が刊行するタンパク質の関連分野全般を扱う主力学術誌「Protein Science」にオンライン掲載された。

カワラバトなどの一部の鳥は、迷うことなく長距離を移動し巣に帰ることが知られており、その帰巣行動などの研究から、磁場の強さや磁力線の角度を視覚的に捉えていると考えられており、その能力は「磁覚」と呼ばれている。

これまでの研究から、“磁覚”に重要な役割を担っていると考えられてきたのが、カワラバトの網膜細胞内に存在して光を受け機能を発揮し、視覚に影響を与えるISCA1とCRYのタンパク質複合体の形成だという。ただし、その複合体の性質はよくわかっていなかったともする。

ISCA1は磁性の強い鉄と硫黄の集合体である鉄硫黄クラスターを結合し、通常は単量体もしくは二量体で存在している。また、ISCA1はCRYを結合する時に柱状の多量体を形成することや、CRYは磁力線の角度に応答する磁場センサーの役割を持つことなどが知られているものの、個々のCRYがランダムな方向を向いてしまうと、検知した磁力線の角度はバラバラになってしまい、磁場センサーとしての機能は発揮できないことも分かっており、こうしたことからCRYの向きを揃えて固定する「未知の仕組み」が存在すると考えられていた。

そこで研究チームは今回、ISCA1の磁場応答に着目し、その仕組みの解明に挑んだという。