経済産業省(経産省)によると、萩生田経済産業大臣が、5月2日から6日にかけて米国を訪問し、ニューヨーク州の州都アルバニーにてIBMが中心的役割を担う最先端半導体研究開発施設「Albany NanoTech Complex」の視察や、現地に駐在する日米の半導体装置材料メーカーとの意見交換を行ったほか、首都ワシントンD.C.にてレモンド商務省長官をはじめとする政府関係者と半導体に関係する経済安全保障やサプライチェーンの強靭化などに関しての意見交換を行ったという。
最先端研究施設でEUV露光装置を見学
萩生田経産大臣は、訪問先である「Albany NanoTech Complex」(ニューヨーク州立大学Polytechnic Institute, College of Nanoscale Science and Engineeringキャンパス内)にて、敷地内にあるIBMの300mm研究開発ラインを見学し、最先端の半導体研究開発に必要なASML製EUV露光装置などの説明を受けたという。IBMは、2021年5月に2nmプロセスのテストチップの作成に成功したことを発表しており、現在は1nmプロセスを目指した微細化研究を進めているとしている。
また、Albany NanoTech Complexの中心的役割を担うIBMのダリオCTOら同社幹部との会談も実施。次世代半導体の技術動向と開発状況に関する説明を受け、半導体微細化研究開発での日米協力の方向性について議論したとしており、萩生田大臣は「半導体の強靭なサプライチェーン構築が一層重要となる中、日米が一体となって、最先端領域の研究開発・製造能力確立の取り組みを推進していく」と述べたという。
Albany NanoTech Complexには、IBMの微細プロセス開発に協力するため、多数の装置材料・設計支援ツールメーカーが研究施設を設置したり、駐在員事務所を設置しており、今回の訪米で萩生田大臣は、日米の代表的半導体関連企業(Applied Materials、Synopsys、東京エレクトロン、SCREEN、JSR)の社員らと意見交換を行い、日米半導体協力の進展状況や深化の可能性を確認したともしている。
ワシントンD.C.にてレモンド商務省長官らと会談
このほか、萩生田大臣は、首都ワシントンD.C.にてレモンド商務長官、ディーズ国家経済会議委員長、タイ米国通商代表、グランホルム エネルギー長官ら米国政府要人らとの会談を実施。レモンド商務長官とは、第1回日米商務・産業パートナーシップ(JUCIP)閣僚会議を開催し、同会合において、半導体輸出管理などについての両国の協力の進展と今後について議論し、インド太平洋地域への米国の関与のあり方などについても議論したとする。
それによると、両者は、日米を含めた同志国・地域における半導体サプライチェーン構築を進めるとの基本原則で合意。覚書には、半導体の製造能力や研究開発の強化、人材育成で連携することも盛り込まれたが具体的な内容は含まれておらず、今後、事務レベルで詳細を詰めるとしている。
すでに2021年に開催された日米首脳会談の共同声明にて「半導体を含む機微なサプライチェーンについても連携する」と明記されており、今更感がある内容である。アルバニーでの日米半導体研究開発協業にしても、対等な協業など望むべくもなく、米国政府が期待しているのは日本の装置・材料メーカーの米国供給網の国内完結への協力であろうし、IBMがEUVの技術供与の見返りに期待してるのは、TSMC同様、日本政府からの補助金であろう。 なお、経産省は2021年、東京エレクトロン/キヤノン/SCREENの国内半導体製造装置3社に産業総合研究所を含めたコンソーシアムによる2nmプロセス以降の微細化プロセス開発に420億円の補助金を支給したが、同コンソーシアムは、EUV露光装置を有していないことから、IBMからEUVリソグラフィ技術を含め、すでに開発が進んでいる2nmプロセス技術の導入を図るのではないかと見られる。IBMはすでにSamsungやIntelと技術提携して、彼らに先端技術を提供しているが、先端研究費の確保のためにはより多くの提携先を確保する必要がある。経産省は、2nm以降の微細プロセス開発に関してIBMやIntelとの提携を模索していることを明らかにしていた。