光電製作所、東京工業大学(東工大)、工学院大学の3者は、総務省委託研究「5.7GHz帯における高効率周波数利用技術の研究開発」におけるフィールド実験において、高度約100mで飛行するドローンから送出した4K(2160/60p)生映像の5km伝送に成功したと発表した。

同成果は、光電製作所 開発部、東工大 工学院 電気電子系の阪口啓教授、工学院大 工学部 機械システム工学科の羽田靖史准教授らの共同研究チームによるもの。3者の担当は、光電製作所 開発部は無線映像装置の開発、東工大の阪口教授らは無線通信システムの全体設計、工学院大の羽田准教授らはドローン搭載アンテナの指向性制御となっている。

ドローンの目視外飛行や自動運行時の安全確保、効率的な警備、被災地などの情報収集への活用のため、より高精細な生映像のリアルタイムな無線伝送が求められている。また、増え続ける周波数需要を踏まえ、使用無線周波数帯域は狭帯域で、なおかつ複数機器での同時運用が可能であることが望まれている。

このような背景の下、総務省では5.7GHz帯「無人移動体伝送システム」として制度化された計105MHzの帯域を使用し、「最大5km遠方のドローンから超高精細4K映像のリアルタイム伝送」と「最大10台のドローンを同一エリア内で同時使用可能」の実現を目的とした委託研究として、「5.7GHz帯における高効率周波数利用技術の研究開発」を2019年に公募。光電製作所、東工大、工学院大の3者が共同研究として採択を得て、これまで取り組んできた。

そして今回、福島県南相馬市の福島ロボットテストフィールド近辺の海岸指定エリアにおいてフィールド実験を実施。試作無線機を搭載したドローンを制限高度150m未満で飛行させての通信実験が行われ、5.7GHz帯「無人移動体伝送システム」で定義された帯域幅10MHzのチャネルを用いての4K生映像の5km伝送が確認された。

さらに、同じ10MHzのチャネルを用いてあるドローンからの映像伝送と異なるドローンへの制御データの同時伝送、帯域的に重複が懸念される無線LAN機器の検出・干渉回避手段の検証、5km先の地上高150mからでも通信品質を確保するアンテナ特性・追尾機構の検証なども実施され、目標とする性能を満足できることが確認されたとする。

今回のポイントは以下の3点だとする。

  • ドローンへの指向性アンテナの搭載
  • 映像伝送にMIMOの空間多重伝送を活用
  • 2機のドローンのうち、片方の映像伝送ともう片方の制御伝送に同じ周波数チャネルを採用

今回の指向性アンテナは横と縦に動き、GPSや画像認識によって相手に向き合うような仕組みとなっている。10台のドローンが遠方の地上局と通信するだけでなく、ドローン同士がお互いに電波で邪魔されないようにするためのアンテナ制御を行うという。

2つ目の映像伝送に用いられているMIMOとは、Wi-Fiなどで実用化されている、送信側と受信側でそれぞれ複数のアンテナを用いて通信品質を向上させる技術のことだ。今回は、水平と垂直の2つの偏波を使うことで、5kmの距離で4k映像の伝送を達成したとする。

3つ目の1機の映像伝送と、もう1機の制御伝送に同じ周波数チャネルを使っている点に関しては、それによって高い周波数利用効率が実現されたという。

なお研究チームでは今回の成果について、機能試作機での個々の機能確認を行えた段階ではあるが、今後、機器の安定性、システム操作性の向上を図るとともに、ドローン搭載を踏まえてのサイズ、質量、コストの削減を図り、早期実用化を目指すとしている。

  • フィールド実験の概要

    フィールド実験の概要 (出所:東工大プレスリリースPDF)

フィールド実験の解説動画。再生時間2分22秒 (YouTube東京工業大学チャンネル)