琉球大学は4月25日、九州・沖縄地域において多発している超難治性の血液悪性腫瘍である「成人T細胞白血病」(ATL)の細胞株や患者検体において、グルコーストランスポーター分子の1つである「SGLT2」が高発現していることを見出したと発表した。
同成果は、琉球大大学院 医学研究科 内分泌代謝・血液・膠原病内科学講座(第二内科)の仲地佐和子講師(琉球大 医学部附属病院 助教兼任)らの研究チームによるもの。詳細は、臨床および基礎医学と薬理学に関連する分野全般を扱う学術誌「Biomedicine & Pharmacotherapy」に掲載された。
がん細胞はミトコンドリアに機能不全が生じると、エネルギー産生効率が高い酸化的リン酸化反応をうまく利用できなくなり、その結果、細胞増殖に必要なエネルギーは、エネルギー産生効率の悪い解糖系を用いたATP産生反応に頼らざるを得なくなる。そのため、がん細胞はブドウ糖(グルコース)の取り込みが盛んになるという特性が知られており、グルコースを取り込めないようにすることで、がん細胞が増殖しにくくなると推測されている。
また最近の研究から、膵臓がんや大腸がんなどのヒトの固形腫瘍をマウスに移植したゼノグラフトモデルに対して、近位尿細管におけるグルコースの再吸収を担うグルコーストランスポーター分子の1つであるSGLT2を阻害することで、尿糖排泄を促進させ、血糖値を下げるという糖尿病治療薬のSGLT2阻害剤の投与にて、がんの縮小効果をもたらす可能性が報告された。
こうした背景のもと、研究チームは今回の研究から、ATLの細胞株や患者検体において、SGLT2が高発現しているということを発見。ATL細胞の代謝や増殖におけるSGLT2の役割の解明を試みた結果、以下の3点が判明したという。
- ATL細胞株は高グルコース濃度の培養条件において細胞増殖が顕著に促進している
- ATL細胞株や患者由来ATL細胞に対して種々のSGLT2阻害薬を作用させると細胞内へのグルコースの取り込みが低下し、解糖系・ペントースリン酸回路の抑制に伴うATP産生量の低下、細胞内NADPHレベルの低下を招き、結果的にG1期に細胞増殖周期を留め、細胞増殖を抑制する
- SGLT2阻害剤による細胞増殖抑制効果は細胞自殺(アポトーシス)には関連しない
また、SGLT2遺伝子に対するRNA干渉によりSGLT2遺伝子の発現を抑制した細胞においては、SGLT2阻害剤を作用させてもグルコースの取り込み低下が観察されなかったともしており、これらの結果から、ATL細胞の増殖においてSGLT2が、グルコースの取り込みに寄与していることが裏付けられたとする。
なお、今回の研究結果を踏まえ研究チームでは、まだ決定的な治療法が確立していないATLのような超難治性の血液がんに対し、糖尿病治療薬を巧みに活用することで、糖尿病とは直接の関係がないものの、進行の早い悪性細胞の増殖を遅らせるというユニークな治療法の樹立が期待できるとしている。