Gartnerは、2023年までに全データベースの75%がクラウドプラットフォームに移行すると予測しており、クラウド移行は世界的なトレンドと言えます。この流れは日本でも例外ではなく、2021年10月にIDC Japanが発表した調査「国内ビッグデータ/データ管理ソフトウェア市場予測」によると、データベースシステムを中心としたデータ管理ソフトウェア市場は今後も堅調な成長を続けると予測しています。
その背景として、DX(デジタルトランスフォーメーション)による企業のデータ活用意識の高まり、分析に必要なデータ量の増加、さらに増え続けるデータをスケールアップするためのクラウドコンピューティングが挙げられています。
DXの推進に加えて、企業は以下の理由からも、クラウドデータベースの導入や移行を進めています。
コスト削減
オンプレミス型に比べ、サーバやソフトウェアの導入、データベース運用・保守サービスの人件費などの初期費用削減に加えて、導入までの期間を短縮できます。
安定した運用
データベースバックアップの自動化、保守、パッチ適用、運用をクラウドベンダーが行うため、ITプロフェッショナルの負担が軽減されます。また、バックアップ時のダウンタイムがなく、災害に直面した際にも安定した運用が可能です。
データベースのクラウド移行に踏み切る前に、いくつか知っておくべきことがあります。データベースをクラウドに移行する際は、移行までの計画、データ整理、テストに何時間もかける価値があります。正しい方法で移行を実施しなければ、クラウド化に伴う利点よりもデメリットのほうが多くなる恐れがあるからです。
以下の5つのステップを参考に、クラウド移行時に直面する可能性がある主な障害に対処してください。クラウドへの移行がうまくいけば、コスト削減、ユーザーアクセスの向上、パフォーマンスの改善など、さまざまなクラウドのメリットを享受できます。
(1)自社に適したクラウドを見つける
自社に適したクラウドを見つけることは、自社の環境を十分に認識した上で行うべきプロセスです。ビジネスに適したクラウドを選ぶことは、移行の第一歩であり、綿密な調査を行う必要があります。まず、移行に伴うダウンタイムについて知る必要があります。一度に、あるいは段階的に、すべてを切り替える時間が必要ですが、オンプレミスで稼働している間にデータをクラウドにコピーしておけば、ダウンタイムを極力回避することができます。
もう一つ重要なのは、オンプレミスのシステムと新しいクラウドシステムが同じ機能を備えているとは限らないということです。オンプレミスでできることが、クラウドではできない可能性もあります。したがって、オンプレミスのデータをクラウド環境に移行する際は、クラウドベースのコードを書く必要になる場合があります。
新旧のシステムを十分に理解することで、こうした多くの変更を行う必要がなくなります。また、クラウド事業者を調査することで、移行時の違いに備えることができます。
(2)クリーンアップ
新しいクラウドに移行する際に最も避けたいことは、余分なデータを抱えたまま移行することです。余分なデータを抱えてのクラウド移行は、もう何年も使っていない物品が分類されていない状態で入った箱を持って引っ越すようなものです。クラウドに移行する前にデータを整理し、ビジネス価値がなくスペースを取るだけのデータは処分しましょう。
クラウドに移行する際に不要なデータを残しておくことで、移行作業を迅速に行い、高品質のデータで新たなスタートを切ることができます。クラウドを整理することで、ストレージスペースとコストを削減できるうえ、システムの動作も速くなるかもしれません。
(3)詳細を記録する
移行前にデータベースを整理するのと同時に、重要なシステム文書をすべて書き留めておくと、引越しで失われるものがなくなります。データの文書化は手間がかかりますが、移行には重要です。
まずは、データディクショナリーを調べ、データの系統を明らかにすることから始めましょう。データの作成からETL処理、そして本番用データベースやデータウェアハウスに至るまで、データが既に通過したステップを記録しておきます。
データの系譜は、自分のデータの保存場所を示してくれます。また、レビュー、クリーニング変換移動の履歴も確認できます。これによって、データを転送したりコピーしたりする前に、データを修正する必要があるかどうかを判断することができます。
オンプレミスにあるすべてのデータをクラウドに移行できるわけではなく、また移行すべきでもないことを念頭に置きながら、データとデータベースを文書化することで、少なくとも移行先の候補が見えてきます。
(4)データのミラーリング
完璧な世界では、オンプレミスからクラウドにすべてをコピーして、何の問題も発生しないでしょう。しかし残念なことに、そこにはもっと多くのことが関わっています。データの移行に伴う複雑な問題を回避するために、DBA(Database Administrator)は2つのシステムの互換性を確認するために特別なステップを踏む必要があります。
移行する際は、ETLプロセスを考慮する必要があります。抽出、変換、ロードのプロセスにより、エンドユーザーがオンプレミスにいる間に、データとアプリケーションをクラウドにコピーすることができます。また、移行中もデータやアプリケーションをクラウドに並行させることができます。
このプロセスでは、クラウドに合わせてデータやアプリケーションを再構成する必要がある場合があります。これは、スタックの各レイヤーを別々にコピーすることや、クラウドに適した新しいコードを書くことを意味します。パフォーマンスが低いコードは、クラウドではよりコストがかかることを忘れないでください。
(5)テストの反復
クラウドがすべてセットアップされたところで、いよいよテストの段階です。クラウドを徹底的にテストすることは、後々の移行に影響を与える可能性のある問題を発見するために不可欠です。まず、オンプレミスで使用していたシステムとクラウドを比較します。その結果、何が足りないのか、クラウドのどこを改善すればいいのかが見えてきます。
パフォーマンスのベースラインレポートを作成し、新しいシステムを監視し、最初の移行で見えている問題だけでなく、将来発生する可能性のある問題についても必ずテストしてください。移行当初は特定のプロセスが機能する必要がない場合でも、移行を完了する前に、数カ月後、数年後にシームレスに機能することを確認する必要があります。また、新しいクラウドシステムは、その信頼性とビジネスユーザーによるテストが完了するまで、使い始めてはいけないことを覚えておいてください。
上記の5つのステップを踏めば、クラウドへの移行を開始できますが、クラウドがすべてのケースにおいて有効であるとは限らないことを覚えておいてください。クラウドは素晴らしい選択肢ですが、オンプレミスのシステムとクラウドベースのシステムの機能が同じでない場合、切り替え時に問題に直面する可能性があります。
ビジネスに適したクラウドベースのシステムを調査し、現在のデータベースを整理し、重要なシステムの詳細を文書化し、システムを複製し、すべてテストすることで、迅速かつ信頼性の高いクラウド移行に近づくことができるはずです。