DXという言葉がトレンドとなり、ある程度の時間が過ぎた。製造業の分野においても、すでに何らかの施策に着手している企業は多いだろう。しかし、DXという言葉が示す範囲があまりに広く、曖昧模糊としているために、“何となくやっている雰囲気を出す”に留まってしまっている場合も少なくないはずだ。
では、製造業におけるDXの本質とは何だろうか。
3月15日に開催された「TECH+フォーラム 製造業 DX Day 2022 Mar.事業革新のプロセス」に、デンソー 執行幹部 クラウドサービス開発部長の成迫剛志氏が登壇。表面的なデジタル化に留まらず、真にデジタルでビジネスを革新するためのポイントについて語った。
真のDXはどこから生まれるのか
講演冒頭、成迫氏は製造業におけるDXについて、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」「ソフトウエア・ファースト」「アジャイル」という3つのキーワードを挙げ、それぞれのキーワードを掘り下げていった。
まず、DXだ。
DXについて多くの人は、「デジタル技術を用いて、製品やサービス、ビジネスモデルや組織を変革し、競争優位性を確立するための取り組み」といったイメージを持っているだろう。
しかし、「それは日本が30年以上取り組んできたデジタル化そのものではないか」と成迫氏は疑問を投げかける。では、DXの本質とは何なのだろうか。
成迫氏は「デジタル化」をさらに3つに細分化して解説する。
1つ目は「守りのデジタル化」とも言うべき「デジタイゼーション」だ。デジタイゼーションとは、デジタル技術を活用し、既存のビジネスプロセスをデジタル化することであり、コピー&ペーストで行うデータ入力のような作業をRPAで自動化することなどが当てはまる。
一方、一歩進んだ「攻めのデジタル化」が「デジタライゼーション」である。これは、顧客視点に立ち、デジタル技術で既存のビジネスモデルを変革することを指す。
例えば、レンタカーサービスとデジタル技術を組み合わせて、スマートフォンから予約可能なカーシェアサービスを生み出すといった具合だ。予約をデジタル化することで、店舗の無人化が可能となり、ビジネスモデルそのものが変わることになる。
最後に、社会の視点で物事を捉え、デジタル技術で現状を再構築する「デジタルによる変革」だ。
その例としては、ウーバーイーツのように、これまでになかったスキームのサービスがデジタル技術によって生み出され、生活が変革されることが挙げられる。これこそが、真のDXと言えるのだ。
こうした3つのデジタル化の視点を企業組織の変革に当てはめるとどうなるだろうか。
成迫氏によると、企業における従来のデジタル化は、あくまでも「プロセスごとのデジタル化」に終始していたのだという。
「製品を生産する」という一連の流れの中にはさまざまなプロセスが存在する。これまでは、その中で「デジタル化できそうなプロセス」だけがデジタル化されていた。結果的に、デジタル化できないプロセスに関しては、相変わらず手作業のまま行われることになる。これは、DXではなくデジタイゼーション、またはデジタライゼーションだ。
では、真のDX――デジタルで現状を再構築するにはどうすればいいのか。ポイントとなるのは、「既存のプロセスをそのままデジタル化しようとするのではなく、全てをデジタル前提にしてプロセスを再構築すること」だと、成迫氏は説明する。
「現状の組織を無視して、全てデジタル化、自動化、無人化できないかを考えるのです。それでも、どうしても人がいないといけないところがあるなら、そこで初めて人を配置します。これまでの延長線上ではなく、まったく新しい起点からのデジタル化や、再構築を目指すべきなのです」(成迫氏)