優れた女性科学者をたたえる「猿橋賞」が、原子核の中の3つの核子(陽子と中性子)の間で「核力」が働くことを実証した東京工業大学教授、東北大学委嘱教授の関口仁子(きみこ)さんに贈られることが25日、決まった。主宰する「女性科学者に明るい未来をの会」(石田瑞穂会長)が発表した。

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    関口仁子さん(女性科学者に明るい未来をの会提供)

原子核の中では、核子同士を結びつける核力が働いている。その源は2つの核子がキャッチボールをするように「中間子」を交換することであるとする「中間子論」を湯川秀樹氏が1935年に提唱し、「二体核力」として理解されてきた。

ところが、二体核力だけでは説明できない現象がみられ、1957年に藤田純一氏と宮沢弘成氏が理論を提唱するなど、「三体核力」の存在が予言された。実証は困難を極めたが、関口さんらが加速器を使った実験で成功したと2002年に発表した。

三体核力は二体核力に比べ極めて小さいため、検証には厳密な理論計算と高精度の実験が求められた。1990年代後半の理論計算の進展により、核子と重陽子を衝突させる実験で実証できる可能性が指摘された。関口さんらはこれを受け、三体核力を実証。さらに理化学研究所(理研)や大阪大学の施設で実験を重ね、三体核力の研究に大きく貢献してきた。

関口さんは国際研究グループの中心となって実験を重ね、三体核力の重要性を確立した。大きな質量を持つ中性子星の理解など、天文学や宇宙物理学への貢献も期待されている。

埼玉県出身。東京大学理学部卒業、東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。理研仁科加速器研究センター仁科センター研究員、東北大学准教授などを経て今年4月から現職。

同会は地球化学者の猿橋勝子博士の基金により創設され、同賞は今年で42回目。贈呈式は5月29日に東京都内で開かれる。

関口さんは取材に対し、次のコメントを寄せた。「私どもが三体核力という新しい核力の存在を実験で示してきたことを評価して頂いたことは、本当にうれしく光栄に思っております。三体核力の理解が原子核や中性子星などに影響することなど、私がこの研究を始めた当初には想像もしていなかった研究の広がりを、今実感しています。今後は三体核力のさまざまな役割を解明するとともに、その先に広がる未解明の物理現象をみてみたいと思っております」

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