経済産業省傘下の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は4月25日、UTMS協会と住友電気工業がAI(人工知能)を活用して道路の信号制御システム開発を進めている過程で、「岡山市内の2カ所の交差点にある信号機に対して、AIを利用して渋滞予測を行い、信号制御をする実証実健を行い、求める成果を得ることに成功した」と発表した。

同実証実験は「2018年度から2022年度まで実施されている『人工知能技術適用によるスマート社会の実現事業』での一環の事業として実施されたもの」と担当部署であるロボット・AI部は説明する。

そして、今回の実証実験の成果を基に、今後は全国にある交通管制システムにAI導入を生かす技術開発検討を進め、さらに少量の車両検知センサを活用する信号制御システムの実用化を図り「交通渋滞の解消と低炭素社会実現という難題に挑戦する技術システム開発を進める」と、ロボット・AI部は言う。

現在、日本国内に設置されている信号機の多くは、道路上の車両検知センサが計測した交通量と渋滞長に基づいて、各都道府県の交通管制センターから最適な青信号の時間を制御している。

この車両の渋滞長を計測するためには、交差点流入路に沿って数100mごとに渋滞計測用車両検知センサを設置することが必要になるために、その運用コストが高いことが課題となっているのが実情になっている。

これに対して、車両検知センサに代わって、新しい交通情報源として車両から直接収集される走行軌跡情報(プローブ情報)が注目されている。

対象車両が限定されるためにデータが収集できない時間帯があるほか、車両からの情報送信周期や収集センターでの集計処理にかかる時間が長い、交通管制センターにプローブ情報が収集されるまでに遅れが生じるというさまざまな課題がこれまでにはあった。

このさまざまな課題を解決するため、UTMS協会と住友電気工業はAI技術を活用するプローブ情報とセンサ情報に基づいて、AIによる渋滞予測を活用した信号制御の実証実験を進めてきた。

この実証実験は岡山県警察本部の協力の下に「岡山県警察本部交通管制センタに導入したAIで推定した渋滞長を活用して道路の信号制御を行い、従来の渋滞計測用車両検知センサの計測結果を活用する信号制御と同等の性能を発揮することを今回、実証した」と説明する。

  • AIで推定した渋滞長を活用して道路の信号制御を行い、従来の渋滞計測用車両検知センサの計測結果を活用する信号制御のシステムの模式図

    AIで推定した渋滞長を活用して道路の信号制御を行い、従来の渋滞計測用車両検知センサの計測結果を活用する信号制御のシステムの模式図(引用:NEDO資料)

今回の実証実験では「AIによる渋滞予測に必要な交通量計測用車両検知センサのみを残して、既存の車両検知センサを半減(例えば、車両検知センサを合計14基から7基に削減)しても渋滞状況に変化はなく、信号制御の性能を維持できることが確認できた」と説明する。

  • 車両検知センサを削減した信号制御のシステムの模式図

    車両検知センサを削減した信号制御のシステムの模式図(引用:NEDO資料)

この結果、車両検知センサを削減できることからインフラコストを低減できるとともに、渋滞計測用車両検知センサが少ない交差点でも適切な信号制御が可能になるなどによって交通渋滞の減少に伴って低炭素社会実現への貢献が進むと予想できそうだ。

筆者注

一般社団法人UTMS協会は、情報通信技術を活用した新交通管理システム(UTMS:Universal Traffic Management Systems)に関する調査・研究開発を担当するとともに、UTMSに関する国内外における標準化を進める協会である。