エアバス・ヘリコプターズ・ジャパンは4月21日、同社の神戸事業所を報道公開した。この事業所は神戸空港の一角にあり、10年前の2012年4月に開設された。実はその際にも訪問しているが、10年間でどれだけ変化したかという視点も織り交ぜながらレポートする。

  • 神戸事業所。開設当初はまだ「ユーロコプター」だったが、今の看板はもちろん「AIRBUS」

神戸事業所とは

エアバス・ヘリコプターズはその名称らお分かりの通り、エアバス・グループ傘下でヘリコプターの製造を手掛けている。以前の名称はユーロコプターで、神戸事業所を開設したときには、まだ社名はユーロコプターだった。過去の歴史的行きがかりから、機体の名称が「AS○○」「SA○○」「BK○○」「EC○○」と多種多様だが、現行モデルはすべて「H○○」でそろっている。そのエアバス・ヘリコプターズの日本における拠点が、エアバス・ヘリコプターズ・ジャパンである。

神戸事業所はヘリコプターの製造を手掛けているわけではない。機体はフランスやドイツの工場で製造したものを、日本に持ってきて納入している。昨年には、日本のカスタマーに納入する機体をA300-600ST「ベルーガ」で空輸してきた件が話題になった。

  • 神戸事業所開設後の10年間 提供:エアバス

ヘリコプターに限ったことではないが、航空機は製造・納入したらそれで終わりではない。運用中は定期的な点検整備が必要になるし、操縦士や整備士の養成も必要になる。航空機の操縦や整備は機種ごとにそれぞれ資格が必要になるから、扱う機体が変われば訓練はやり直しである。

整備にしろ訓練にしろ、機体の保有や運航を担当するオペレーターが自ら実施する場合もある。しかし、よほど規模の大きな組織でなければ、必要な施設・機材・人材をすべて自前で用意するのは負担が大きい。そのため、こうした業務は専門の企業が受託する場面が多い。

機体製造元のメーカーであれば、機体のことは知悉しているから、整備にしても訓練にしても確実である。それ以外でも、整備や訓練を専門に請け負うために必要な設備、人員、知見を持っている会社もある。

そこでエアバス・ヘリコプターズ・ジャパンでは、神戸事業所でカスタマー向けの整備や訓練を実施している。また、製造した素の機体をカスタマーの要求に合わせて改造したり、必要な機器を追加搭載したり、既存の機体に対して後から改修を実施したりといった作業も実施している。そのため、主な施設は「機体整備用の格納庫」「コンポーネント整備用の各種ショップ」「訓練施設」となる。

  • 神戸事業所では、さまざまな機種について当局の認証を得て、機体整備を実施している。JCABとは国土交通省航空局のこと 提供:エアバス

用途によっては機体に特殊な装備を追加しなければならない場合がある。例えば、報道用のヘリコプターでは、動画撮影用のカメラを組み込んで旋回・俯仰を可能にしたターレットを取り付ける場合がある。そうした追加装備は専門のメーカーが手掛けているが、それをヘリコプターに搭載して使えるようにするとともに、安全に飛行できることを確認する必要もある。それができるのは、機体を手掛けているメーカーだ。だから、追加装備の搭載に関わる一連の作業も、神戸事業所の仕事になる。カスタマーに近いところで作業を行う方が良い。

  • 機体整備や人員の訓練だけでなく、カスタマーのニーズに合わせた装備の搭載と、関連する業務も実施している 提供:エアバス

整備施設あれこれ

神戸事業所の建屋で中央に位置するのが、当初からある格納庫で、面積は約3,000平方メートル。収容できる機数は28機とされているが、機体の規模によって増減は発生する。ここは空調が整っており、分解や取り外しを要する作業はこちらで実施する。

一方、2020年に加わった増築分の格納庫は、面積が約1,500平方メートル。収容できる機体の数も、面積に比例して半分程度となる。こちらには空調はないそうだ。この格納庫が加わったことで、60%の能力拡張になったという。

整備作業に入った機体から取り外された機器類は、格納庫の東西に隣接して設けられた各種ショップに運び込まれて、点検や整備を受ける。ショップには以下のものがある。

  • 電気ショップ:各種電装品の担当
  • ラジオショップ:無線機の担当。ここで実施しているのは規定の性能が出ているかどうかの確認までで、修理はメーカー送りとなる。
  • シートメタルショップ:板金加工の担当
  • ペイントショップ:機体の外部塗装を担当。機体をまるごと収容できる塗装ブースがある
  • ブレードショップ:ヘリコプターが揚力と推進力を発揮する要、ローター・ブレードの担当
  • エンジンショップ:エンジンの担当。

ブレードは1枚板ではなくて、桁と外板を組み合わせた構造になっている。その構造材を接着して組み立てるだけでなく、荷重がかかったときのたわみなど、静的な性能の確認も行う。また、回転するものだから、セットになって動くブレード同士のバランス取りも必要だ。バランスの調整が必要になったときには、ブレードの内部にバランスウェイトを組み込む。

実は、ローター・ブレードは案外と修理を要するパーツだ。例えば、鳥をひっかけるような事故があれば、変形や損傷が生じる可能性があるから、検査と修理が必要になる。なお、ブレードの修理は日本のみならず、他国からも認証を取得して作業を実施している由。

エンジン整備は、オーバーホールまでは実施しておらず、それよりも軽い段階の整備を担当している。エアバス・ヘリコプターズが製造しているのは機体だけで、エンジンは別のメーカー(サフラン・ヘリコプター・エンジンズなど)が手掛けている事情によるものであろうか。

格納庫のあちこちに、整備済みのブレードやシャフトなどを置いておくためのラックが設けられていた。普通なら床に並べて置くところだが、スペースを食わないように神戸事業所で独自に考案したとのこと。整備済みのコンポーネントを損傷するようなことがあっては一大事だから、保管の方法も重要な課題である。

  • 作業を効率的に進めるとともにスペースを有効活用するため、独自の道具立てを考案した 提供:エアバス

また、落とし物(FOD : Foreign Object Debris)が見つかったら1カ所にとりまとめるとともに、出所の究明を実施する。外れてはならないパーツが機体から脱落していた、なんてことになったら一大事だし、FODは機体が損傷する原因にもなるからだ。