大阪府寝屋川市にある同志社香里中学校・高等学校では、中学校は2021年9月から一人1台のiPadを導入。高校生は昨年の1年生からSurfaceを入学時に購入してもらい、一人1台環境の運用がスタートした。また、カシオ計算機が提供するICT学習アプリ「ClassPad.net」も利用している。
そこで、高校の英語を担当するフォーブス・アンドレア先生に、同校での授業の活用状況を聞いた。
同校では、中学校のiPadは学校からの貸与、高校は入学時に保護者が購入という具合に対応が分かれている。このあたりの事情について、フォーブス氏は、「かなり議論がありました。中学生は貸与で利用していますので、高校生も含めて全員を貸与にすべきという意見や、中学・高校すべてで購入したPCを使うという意見もありました。高校が購入にしたのは、貸与にすると学校の負担が大きくなるというのが一番の理由ですが、GIGAスクール構想で補助金が出ましたので、中学校は貸与となりました。高校の場合は、保護者に購入してもらうことはかなり前から決まっていましたので、そのままいくことになりました。また、高校入学時に購入すれば、大学に行っててもそのまま利用できるというのも理由としてあります」と説明した。
今後、高校入学時にPCを購入してもらうことは継続していくという。ただ、中学校に関しても、今回購入したiPadが使えなくなったときに、購入か貸与かの議論になる可能性があるという。
中学校がiPad、高校校ではWindows PCを選択した理由について同氏は、「iPadは操作しやすい面と、Apple School Managerによって細かなところまで簡単に管理できるというメリットがあります。一方、高校の場合は、大人になったときにWindows PCをほとんどの会社が導入していますので、そのスキルを身に付けていかなければならないということで選択しました」と述べた。
フォーブス氏が担当する高校の英語の授業では、WritingをPCで行っているほか、Google Jamboardを使ってアイデアを共有しているという。また、3学期にはプレゼン資料の作成にも利用し始めたという。
そのほか、Google Documentや英検教材の利用、フィリピンの先生との1対1での会話など英会話にも利用しているという。
同氏は、英語では、ほぼ毎時間PCを活用していると語った。
とくに効果があったのがリスニングの部分で、自分がしゃべっている動画をFlipgridで作成して互いに確認したり、自宅学習で英語スピーチの読み上げのサイトも活用している。
また、ClassPad.netの授業支援機能を使って、ほかの生徒が書いた課題をクラス全員で閲覧している。ClassPad.netの例文は使いやすい表現が多いため、表現力を磨くために調べた単語の例文も参考にするように指導しているという。
さらに新年度では、「書く(ライティング)」だけではなく、「聞く(リスニング)」「話す(スピーキング)」「読む(リーディング)」、さらに「プレゼン」の5技能を鍛える授業でClassPad.netを活用することや、リスニング問題をGoogle Formで解答してもうこともやってきたいという。
「授業でやらなくてもよいリスニングや単語の練習を自宅でやってもらい、授業では生徒同士で話し合いながら共同作業を行うようにしたいと思っています。一人でできることと、みんながいないとできないことを分けてやっていければと思います」(フォーブス氏)
他の教科では、資料をクラウド上にアップする、Google Formを利用する、レポートの提出などに利用しており、英語ほど活用は進んでいないという。
「先生もまだ慣れていなくて、本格的な活用にはいたっていない状況です。コロナで休校になってから、PCを使う先生が増えてきたと思います。PCをどのように使うのかは、各先生に任されていますが、今後はもう少し教科で統一していければと思っています。これは今後の大きな課題だと思います。今後、探求型学習が増えますので、新設した図書館を利用し、本、雑誌などを使いながらレポートやプレゼンをまとめる能力をつける目標もあります」(フォーブス氏)
ただ音楽の授業では、みんなが同時に声を出すことができないため、他の人の声をPCのイヤホンで聞きながら合唱するといった、これまでできなかった取り組みも行っている。また、社会の授業ではe-ライブラリを1年間家庭学習で使用したほか、中学1年生ではロイロノートやKeynoteでプレゼンする取り組みを行った。
授業でPCを活用していく上での課題は、生徒間のスキル格差だという。
「正直、高校生になったとき、どれくらいPCの操作がわかっているのかがわかりませんでした。これまでPCを使ったことがない生徒からは、マウスの使い方やコピー&ペーストの方法、Caps Lockが押されているときに文字が大文字になるといった質問がすごく多く、1つ1つ教えていくしかない状態です。今後は、入学後のオリエンテーションで最低知っておくべきことは、教えるべきだと思っています。こういった生徒が、クラスに2-3割おり、そういった生徒にはなるべく声をかけるようにしていますが、付いてこれていないことは割と多いです」(フォーブス氏)
授業以外の活用では、文化祭の台本をつくったり、Tシャツのデザインを共有することなどで活用しているという。
「これまでパソコンを使っても、データを共有することはありませんでした。一人1台になって共有ができることは非常に便利だと思います」(フォーブス氏)
また、クラブ活動では動画を撮って自分で確認したり、修正することにも活用しているという。
この1年間のPC活用での反省点としては、いろいろとチャンレンジし過ぎた面があった点だという。
「私はたくさんのことに活用していきたいと思いますが、盛沢山にやると1つ1つを覚えてもらえないということになります。PCの操作に慣れている生徒はすぐにできますが、初めての生徒にあまり押し付けるとしんどくなるので、今後は1つのことができるようになってから新しいことを始めることにしたいと思っています。一人1台の導入から一年間が経ちましたので、さまざまな失敗から学び、より充実した授業をしていきたいと思っています」(フォーブス氏)
今後の希望について同氏は、教室は狭いので校内の空きスペースにデジタルホワイトボード等を設置してグループワークができるようにすれば、より活用できる範囲が広がると語った。また、探求型の授業では、大学教授など外部と人つながって会話することにもチャンレンジしたいという。
そのほか運用ルールについては、多くの学校ではより制限をかける方向で検討されることが多いが、同校では、当初予想したほど問題は起きなかったという。その上で同氏は「今後は生徒がPCの活用ルールについて考えるなど、生徒が中心になって啓蒙していければと思っています」と語った。