早稲田大学(早大)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は4月18日、国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟の船外実験プラットフォームに搭載された宇宙線電子望遠鏡(高エネルギー電子・ガンマ線観測装置)「CALET」を用いて、銀河宇宙線中の鉄とニッケルの世界最高エネルギー領域に至る高精度なスペクトルの観測に成功したと発表した。

同成果は、早大 理工学術院の赤池陽水主任研究員(研究院准教授)が参加した、JAXA、伊・シエナ大学などの研究者による国際共同研究チームによるもの。詳細は、鉄成分については2021年6月に、ニッケル成分については2022年4月にそれぞれ米物理学会が刊行する主力学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。

これまでのところ、天の川銀河内を起源とする高エネルギー宇宙線(銀河宇宙線)は、「超新星爆発に伴う衝撃波で加速され、星間磁場により銀河系内を拡散的に伝播して地球に飛来する」というのが標準モデルとされている。しかし、標準モデルでは観測される宇宙線スペクトルの形状が単調な冪型(べきがた)となることが予測されているが、直接観測では原子番号(電荷:Z)が6程度以下の軽い原子核については、単純な冪形状からのズレのある「スペクトル硬化」という、標準モデルでは説明できない結果が報告されている。

その解明の重要な鍵となるのが、星の核融合反応による元素合成の最終段階で生成される鉄(Z=26)とニッケル(Z=28)とされている。これより重い原子核は、星が超新星爆発を起こす直前にはほとんど存在しないため、この鉄とニッケルが星の進化の最終段階や加速機構の直接的な情報をもたらす重要な宇宙線成分とされており、軽い元素と、鉄やニッケルなどの重い元素におけるスペクトルの高精度観測による、両者のスペクトル構造の違いが注目されるようになっているという。

鉄成分のエネルギー領域観測において高エネルギー領域に適しているのが、カロリメータ型検出器であり、その代表的な装置として、2015年10月から継続して観測を続けているのが早大とJAXAによって開発されたCALETだという。同検出器は、Z=1の陽子(水素)から28のニッケルまで、エネルギーと種類を判別できる電荷測定性能と、1GeVから1PeVの6桁に及ぶ広いエネルギー測定性能を持った、陽子や原子核成分の観測にも適した観測装置だという。