分子科学研究所(分子研)、量子科学技術研究開発機構(量研機構)、総合科学研究機構(CROSS)、日本原子力研究開発機構(JAEA)、J-PARCセンターの5者は4月13日、シアノバクテリアの時計タンパク質の1つである「KaiC」の持つ、温度に依らず24時間周期が一定に保たれる仕組みを詳細に分析した結果、時計タンパク質が原子や分子全体の運動それぞれの特性を活かして、精密な計時システム(概日時計)を実現していることを解明したと発表した。

同成果は、分子研の古池美彦助教、同・向山厚助教、同・秋山修志教授、同・欧陽東彦研究員、量研機構の松尾龍人主幹研究員、同・藤原悟専門業務員、CROSSの富永大輝副主任研究員、JAEAの川北至信 主任研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の物理とその関連分野を扱うオープンアクセスジャーナル「Communications Physics」に掲載された。

バクテリアや昆虫、哺乳類、さらには植物など、地球の多くの生命が広く共通して概日時計(一般的には体内時計)と呼ばれるシステムを備えており、現在の地球の自転が生み出す約24時間(概日)周期の環境変化に適応している。

概日時計の研究は、細胞内においても試験管内においても進めやすいことから、長らくシアノバクテリアが主に用いてられてきた。このバクテリアの概日時計は、KaiCのほか、KaiAとKaiBという3種類の時計タンパク質と、生物の体内における“エネルギーの通貨”などと紹介される「アデノシン三リン酸(ATP)」を試験管内で混ぜ合わせることで再構成することが可能であることが知られている。

一般的に、温度が高くなれば原子や分子の動きは活発になり、低くなれば反対に鈍くなるのが基本的な物理法則だが、試験管内のタンパク質時計は「周期の温度補償性」を有しており、25~45℃の範囲内でほぼ一定の周期を保つことができるほか、KaiCはATPを分解することでリズムを生み出していることが分かっているが、そのATP分解速度も温度に依らず一定で、こちらは「反応の温度補償性」と呼ばれている。

これは、KaiCには温度の変化による原子や分子の運動速度の変化を吸収し、リズムが速くなりすぎたり遅くなりすぎたりしないよう、自身で制御できるメカニズムが備わっている可能性があるということを示唆するものであり、もし、その推測が正しいのであれば、概日時計は温度補償された原子レベルの運動を積み重ねて24時間というリズムを生み出していることが考えられる。逆に、原子レベルの熱揺らぎが温度によって加速されれば、より大きな時空間スケールの運動(分子の全体運動)などを組み合わせて時間を計っている可能性もあると考えられているとされるが、概日時計のシステムとしての温度補償性と、時を刻むタンパク質における原子レベルの揺らぎの関係は、良くわかっていなかったという。

  • 概日時計システムを構成するKaiCの機能と運動

    概日時計システムを構成するKaiCの機能と運動 (出所:J-PARC Webサイト)

そこで研究チームは今回、温度補償された野生型KaiCと比較するため、温度補償性を取り除いたKaiCのアミノ酸変異体「KaiC変異体」として、温度上昇に伴ってリズムが速くなる「加速型」と、逆に温度上昇によってリズムが遅くなる「減速型」の2種類を設計することにしたという。