東北大学は4月12日、リチウムイオン電池(LIB)の正極材として、従来のようにコバルト(Co)やニッケル(Ni)をはじめとする特定のレアメタルを混合するのではなく、多数の元素を同時に混合してエネルギー利得(配置エントロピー)を高めることで、層状酸化物構造で構成される単一の相からなる正極材料の合成に成功したと発表した。
同成果は、東北大 金属材料研究所の河口智也助教、同大学大学院 工学研究科のビアン・シャオ大学院生、東北大 金属材料研究所の市坪哲教授らの研究チームによるもの。詳細は、米化学会が刊行するエネルギー変換と貯蔵に関する学際的な分野を扱う学術誌「ACS Applied Energy Materials」に掲載された。
現行のLIBの正極材料には、LiMO2(M:遷移金属)で表される層状岩塩型構造を有する材料が一般に用いられている。この結晶構造を1種類のMで構成する遷移金属元素としてはCo、Ni、クロム(Cr)のみが知られており、元素の選択肢が限定されていることが課題だったという。
そこで今回の研究では、金属材料工学の分野において近年注目されている「ハイエントロピー合金」の考え方に着目することにしたという。同合金は、本来混ざり合わないはずの金属元素をナノテクなどを用いて混合することで、従来にない優れた物性を実現した金属材料であり、その考え方を酸化物に採り入れ、ハイエントロピー酸化物正極材料の実現可能性を検証することにしたという。
具体的には、混合エントロピーによる層状岩塩型構造の合成可能性や電極性能を比較検討するため、すでに確立された系である擬三元系の略称「MCN」を化学組成の基礎として、さらにCrや鉄(Fe)を添加した擬四元系の略称「CMCN」の、および擬五元系の略称「CMFCN」が合成され、それらの正極特性の評価が行われた。
これらの物質は、もともと層状岩塩型構造を有さない元素を大量に(遷移金属のみの比率で40%ほど)含むにも関わらず、CMCNとCMFCN両方の組成において層状岩塩型構造を有する物質が得られることが確認されたほか、充放電試験から、これらの物質への可逆的なリチウム(Li)の挿入・脱離が確認され、正極材料として利用可能であることが判明したとする。
また、繰り返し充放電が行われた際に、これらの材料では既存のLIB材料であるLiCoO2で見られた酸素ガス放出を伴うのとは異なる2種類のサイクル劣化を示すことも確認されたことから、その原因解明に向け、詳細な解析が行われたところ、サイクル劣化は遷移金属の移動によるLiの再挿入の阻害に起因することがわかり、その様式はサイクル数に応じて2種類存在することが示唆されたという。