デロイト トーマツ グループは4月13日、日本の上場企業を対象とした「企業のリスクマネジメントおよびクライシスマネジメント実態調査」2021年版(以下、日本版)、ならびにアジアの日系企業を対象とした「アジア進出日系企業におけるリスクマネジメントおよび不正の実態調査」2021年版(以下、アジア版)についての調査結果を発表した。
日本版は2021年10月中旬~10月末、日本の上場企業約3,500社を対象にアンケート形式で調査したもの(有効回答数は377件)。また、アジア版は2021年11月~12月にアジア地域(インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシア、ベトナム、ミャンマー、中国、台湾およびインド)に進出している日本企業の関係会社に対して調査を実施したものだ(有効回答数は717件)。
日本版の主な調査結果として、国内で優先的に対処すべきリスクは1位が「異常気象・自然災害」、2位が「人材不足」となり、災害リスクに対する企業の意識が引き続き高いことが明らかとなった。また、前回4位の「人材流失、人材獲得の困難による人材不足」が2位に順位を上げたほか、「原材料ならびに原油価格の高騰」が前回13位から5位へ上昇した。
国内本社および国内子会社が2020年から2021年にかけて経験したクライシスの種類を確認したところ、「自然災害関連」が2020年は30.9%、2021年は24.6%とともに最多となり、特に金融業においては回答割合が増加した。また、COVID-19感染拡大に伴うまん延防止等重点措置や各種経済活動の停滞をうけ、経済環境関連のクライシスに対する回答も多く、特に卸・商社業においては2020年の0%から2021年は11.1%と急増。世界的な物流の停滞に関する危機感が現れている。
COVID-19の影響で優先して着手が必要な対策は、「リモートワークの推進」が昨年3位から本年は1位に。次いで「企業戦略の見直し」、「危機管理体制強化」、「ペーパーレス化の推進」、「業務プロセスの標準化」となった。特に企業経営・ガバナンス、業務オペレーションといった分野での対策が急務であることがうかがえる。
アジア版の主な調査結果では、アジア拠点が考える優先して着手が必要なリスクは「疫病の蔓延(パンデミック)等の発生」が昨年に引き続き1位。次いで「人材流出、人材獲得の困難による人材不足」、「原材料ならびに原油価格の高騰」「市場における価格競争」、「サプライチェーン寸断」となり、2020年に引き続き、COVID-19に伴う人流の制限や工場の操業停止などを余儀なくされた企業が多く発生したことが要因と考えられる。特に「原材料ならびに原油価格の高騰」については、昨年10位から今年は3位と大きく順位を上げ、半導体不足や原油の協調減産といった事象がアジア拠点にも大きな影響を及ぼしていることが見て取れる。
アジア拠点の不正について、「不正顕在化またはその懸念あり」との回答が27.6%と減少し続けている。COVID-19の影響により交際費の利用や出張の機会が減少し、それに伴う不正が減ったことや、COVID-19対応に追われて業務側でのモニタリングや内部監査が十分に行えず、不正発覚が遅れていることが原因と考えられる。不正の種類は「在庫・その他資産横領」、「購買に関する不正支払」、「経費に関する不正支払」が上位となった。一方で不正に関与し、最も大きな被害を与えた犯行者の職位については「経営者・役員」が2020年の4.8%から2021年は8.6%と増加した。
不正が発生した部署に関しては、前回に引き続き「営業部」が最多。次いで「購買部」、「その他」、「製造部」となり、取引先との接触の多い部署での不正が多い。営業部における不正が多いのは、経費や賄賂に関する不正支払の他、顧客情報の不正利用や漏洩が関連すると想定される。