物質・材料研究機構(NIMS)、金沢大学(金大)、大島商船高等専門学校(大島商船)、科学技術振興機構(JST)の4者は4月11日、磁気冷凍システムの改良により-250℃以下の極低温における駆動を実現し、同システムによる水素の液化に成功したと発表した。
同成果は、NIMS エネルギー・環境材料研究拠点 磁気冷凍システムグループの神谷宏治グループリーダー、同・齋藤明子主席研究員、同・沼澤健則特別研究員、同・竹屋浩幸特別研究員、金大の松本宏一教授、大島商船高の増山新二教授らの共同研究チームによるもの。また今回の研究は、JST 未来社会創造事業「磁気冷却技術による革新的水素液化システムの開発」の一環として行われた。詳細は、応用物理学会が刊行する学術誌「Applied Physics Express」に掲載された。
水素エネルギーの普及には、供給価格を下げることが必須とされており、日本では、1m3あたりの価格を現在の100円から、2030年には30円、2050年には20円以下にすることが目標とされている。供給価格を下げるためにはその生産のためのコストも下げる必要があり、そのための手法の1つとして、水素の運搬・貯蔵をより行いやすくする「水素キャリア」の開発も重要とされている。
水素キャリアの1つとして研究が進む液体水素は、使用時に精製する必要がなく、それでいて水素ガスに対しておよそ800分の1まで体積を圧縮できる点に注目が集まっている。しかし、液化するには絶対温度約20K(約-253℃)まで冷却する必要があり、そのコストが高いことが課題とされている。また、現在の供給価格の3分の1をそうした液化のためのコストが占めており、この液化コストの低減が求められているという。
液化コストの低減には、液化効率(投入電力に対する液化される水素量)を高める必要があるものの、現在の気体式冷凍機では25%程度が限界であり、新たな高効率手法が求められている。そうした中、現在期待されているのが、磁性体の「磁気熱量効果」という現象に基づく「磁気冷凍」であり、理論上ながら、液化効率を約50%にまで引き上げられるという。
しかし、そうした磁気冷凍技術も、現在のところ、冷却動作温度範囲が5℃程度しかないという課題があり、そうした冷却動作温度範囲の拡大手法として磁性体の磁気熱量効果に加え、磁性体自体が蓄冷・蓄熱する機能を利用し、その冷熱を熱交換ガスの流動により取り出すことで動作温度範囲を広げるという「能動的蓄冷式磁気冷凍」(AMRR)が提案されている。研究チームは今回、このAMRRサイクルを用いて、液体水素を実際に製造することを試みることにしたという。