文部科学省傘下の科学技術振興機構(JST)の経営企画部エビデンス分析室は3月31日、「ホットペーパーからみた新型コロナ研究」という題目の冊子「シグマエビデンス」の初版を出版した。
「シグマエビデンス」(総ページ数は114ページ)は、最近は1年間に約300万本も出版される世界中の科学論文の中で、2019年末から世界各国で蔓延し始めた“新型コロナウイルス関連(SARS-CoV-2)”の科学論文が2020年1月から急増し始め、約半年後の2020年7月までに新型コロナウイルス関連の科学論文は累積数が2万本を超え、さらに約2年後の2021年12月には18万6000本台と急増し、新型コロナウイルス関連の科学論文の存在感が大きくなったからだ。
世界中の研究者の中で、新型コロナウイルス対策に関係する研究を行う機会が増えたことから、論文の動向分析が必要不可欠になったと、エビデンス分析室が判断し、まずJST内部向けのWebサイトに新型コロナウイルス関連の科学論文の動向分析を公表し、外部にも公表すると決断した結果、今回の出版に至ったという。
エビデンス分析室は、元々「プラスエビデンス」という材料研究動向を中心とした科学論文分析による科学動向の分析を続けていたが、加えて始めた「シグマエビデンス」では、ライフサイエンス、物理工学、情報科学、環境などと横断的な分野での動向分析を行っていた。
そして世界中で、この新型コロナウイルス関連の科学論文が急増した動向を受けて、シグマエビデンスの中で新型コロナウイルス関連論文の分析結果を2020年1月から発表し始めた。
そして、SARS-CoV-2の変異株出現や対応ワクチン開発などの関連論文が急増する中で、シグマエビデンスの中でさまざまに分析した新型コロナウイルス関連論文について焦点を当てた特集の小冊子を出そうという議論が高まり、これまでWebサイトで出した情報を丁寧に再編集して、シグマエビデンスの初版を出版した。
これによって「JST外部にも新型コロナウイルス関連の科学論文の動向分析を公表し、その研究の方向づけを一層深く議論したい」とエビデンス分析室の吉田秀紀調査役は説明する。
大学や公的研究機関などに所属する研究者は自分の専門分野の研究の進め方を、専門分野の範囲で出版される科学論文を参考にするが、専門分野が異なる分野は軽くしか読まないことが多い。
エビデンス分析室はコロナウイルス関連の科学論文に、大分類として「臨床情報」「治療」「基礎研究」「環境/社会」「その他」の5つに大別し、さらに例えば「臨床研究」は「疫学」「症例」「病理」という3種類の小分類に分けた。この小分類によって、その時点でどの大分類が増え、さらにその中の小分類の動向を探ることで、コロナウイルス関連の研究動向の“焦点”の変化が見えるように工夫したという。
今回、シグマエビデンスでコロナウイルス関連の科学論文の分析によって、国別の論文数の多寡が当然、明らかになった。2020年12月時点から2021年12月までの期間に論文発表数(筆頭著者の国)の国別では、第1位が米国の607本、第2位が中国の385本、第3位が英国の196本となった。
そして、日本は第16位の17本だった。この日本の論文数の少なさについては「この現実を冷静に受け止める必要がある」と、シグマエビデンスの巻末言で指摘し「最近の世界での学術論文の調査でも、日本の研究力低迷に歯止めがかからないことをどう改善するか」と指摘し、議論を呼びかけている。
筆者注釈
「シグマエビデンス」での科学論文の分析手法は、米クラリベイト・アナリティクスが2カ月ごとに出版する「ホットペーパー」という科学学術論文の分析を利用している。この「ホットペーパー」は直近2年間に発表された科学論文の中で、直近2カ月の被引用数がトップ0.1%に入る被引用数が多い注目論文を調べており、最近の論文動向を調べる有力なツールとなるという。冊子「シグマエビデンス」の初版では、第2章で、「ホットペーパー」による科学学術論文の分析の仕方を丁寧に解説している。