昨今、企業の存在意義を考える上で、サステナビリティ(持続可能性)がますます不可欠なテーマとなっています。多くの企業はサステナビリティ戦略を策定するにあたって、さまざまな課題に直面しています。サステナビリティを最終的に実現する要因はいくつか考えられますが、なかでもテクノロジーとイノベーションは企業がサステナビリティ戦略を成功させるために不可欠な要素と考えられます。

レガシーインフラのクラウドへの移行は、単なるデジタルトランスフォーメーション(DX)のトレンドを超え、組織のIT運用をグリーン化して全体的な運用効率を高めるなど、さまざまな側面で企業にベネフィットをもたらすステップとして認識されています。アクセンチュアの調査(”The green behind the cloud” :2020)によると、オンプレミスやローカルのインフラからクラウドに移行した企業は、二酸化炭素排出量を平均で84%削減しています。また、ガートナーの予測(Solution Scorecard for Cloud-Integrated IaaS and PaaS :2021)によると、2025年までに85%以上の組織がクラウドファーストを掲げ、新たなデジタルワークロードの95%以上がクラウド・ネイティブ・プラットフォーム上で展開されるとのことです。このように、クラウドへの移行は不可逆的なトレンドになりつつあります。

これらの調査と予測は、私たちが進むべき方向を示しています。クラウドへの移行を進めることは、二酸化炭素の削減と効率性の向上に寄与し、企業に利益をもたらします。そしてブランド価値を高めることにもつながり、持続可能な事業展開を実現する重要な手段となりえます。

ただし、クラウドに移行するだけでは十分と言えません。クラウドインフラをより持続可能な基盤へと進化させ、エネルギーの使用をより適切に管理し、サプライチェーンにおける二酸化炭素の排出量をさらに削減する新技術が登場しています。サステナビリティ戦略を立てる際に取り組むべき重要な課題をまとめたチェックリストを作成し、目標達成に向けて導入すべき関連技術も併せて示すことは、良い出発点となるでしょう。

  • アリババクラウド データセンター

ITインフラのグリーン化

データを「新しい石油」に例えた場合、データを安全に保管し転送するための基盤となるデータセンターは、今や新たな「石油備蓄基地」と言えるでしょう。デジタル経済を支えるデータインフラでは、環境に優しいデータセンターへの移行が不可欠です。環境に配慮したデータセンターは、脱炭素計画の目標達成を支援し生態系に優しい環境へ移行していく戦略のなかで中核的役割を担います。

データセンターでは、最新のクラウドコンピューティングを支えるハードウェアとソフトウェア技術によって効率性が発揮されます。例えば、サーバチップは、1チップあたり最大600億個のトランジスタを搭載できるようになりました。パフォーマンスの面では業界が定めるベンチマークを20%上回り、重要視されるエネルギー効率は50%向上しています。また、物理サーバを必要としないアプリケーションが稼働し、効率よくクラウドネイティブインフラストラクチャが動作するようにサーバが設計されています。これにより、サーバはAIコンピューティングに特化し、コスト効率の高い方法で大規模なデータを展開することができます。

また、進化するアルゴリズムによって、クラウドOSの効率性もかつてないレベルに到達しています。世界中の何万台ものサーバをシームレスに統合し、ピーク時に3.63テラバイト毎秒のデータ処理能力を持つスーパーコンピュータも登場しています。これにより、サーバの資源利用率が10%から40%向上し、大幅なコスト削減にもつながっています。

  • アリババクラウド 張北データセンター

エネルギー利用の効率化

データセンターのエネルギー使用管理では、循環型経済の原則を取り入れることができます。そのためには、サーバから発生する大量の廃熱を再利用することが重要です。一部のグリーンデータセンターでは、水冷技術の進歩により、このような取り組みが進んでいます。最新の水冷技術を活用することで、データセンターの稼働時間の90%において低コストの冷却を実現し、従来の機械式冷却と比較してエネルギー消費量を80%以上削減できます。

液浸冷却技術は、サーバを熱伝導性の高い冷却液に浸し、発生する熱を循環する冷却液に直接吸収させる有益な技術です。このような冷却技術により、従来の機械的な冷却と比較して70%以上のエネルギー削減を実現できます。

データセンターではヒートポンプ技術も活用できます。また自治体の暖房用パイプライン網への熱供給にも利用可能で、より多くの企業や住民に間接的に熱を供給できます。

事業活動から発生するカーボンフットプリントを監視・管理・予測するAIやデータ分析技術・ツールにより、企業は施設や事業のエネルギー利用をさらに最適化できます。

  • 液冷サーバのイメージ

最先端なグリーンテクノロジーへの投資

大規模な課題に対処し、新たな機会を生み出す画期的な技術も見逃せません。第一に、再生可能エネルギーへの主要な補完技術、温室効果ガス監視・記録・検証システム、スマート・グリーンな建築技術など、デジタル変革とエネルギー変革の接点に注目することが重要です。

次に、環境に配慮した包装材や持続可能な航空技術など、事業活動を取り巻くサプライチェーンで最も削減が困難とされている排出源に対処するとともに、二酸化炭素除去技術に注目し続ける必要があります。これらには、土壌の炭素貯留を促進する農業技術や海中に炭素を隔離・貯留する「ブルーカーボン技術」などを含め、「自然に基づく解決策(Nature-based Solution)」と、周囲の空気から直接二酸化炭素を回収する技術(ダイレクト・エア・キャプチャー、DAC)などのネガティブ・エミッション・テクノロジー(NETs)の両方が対象になります。

2030年までにサプライチェーン排出量のスコープ3のカーボンニュートラル目標の達成を目指している企業や、2030年までにクラウドコンピューティングの電力を100%クリーンエネルギーでまかなうことを約束する企業が増えています。このようなカーボンニュートラルに向けた努力は賞賛に値するものであり、奨励されるべきです。これらの目標達成に向けて、革新的なテクノロジーが果たす役割をより客観的に評価し、活用すべきと考えています。

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