バブル崩壊や少子高齢化といった要因により、日本経済は長く低迷している。そんな中、2010年にネスレ日本代表取締役 兼 CEOに就任し、20年間マイナス成長だった売上をプラスに転換させたのが、現在ケイアンドカンパニー 代表取締役を務める高岡浩三氏だ。

同氏が、2月24日、25日に開催された「ビジネス・フォーラム事務局×TECH+ EXPO 2022 for LEADERS DX Frontline——変革の第一歩を」に登壇し、ネスレ日本での経験を交えながらイノベーションの本質について語った。

必要なのは「21世紀型のマーケティング」と「イノベーション」

高岡氏は冒頭、自身が就任する前のネスレ日本の業績に言及した。同氏によれば、1990年~2010年の売上高は平均してマイナス3.8%成長と、平均5.2%成長だったネスレグローバルとは対照的な数字だ。当時、日本では少子高齢化が進み始めており、食品メーカーからすれば、「胃袋の数も胃袋のサイズも縮小していく」状況下で、高岡氏はCEOとなった。

同氏によると、戦後日本は「日本株式会社モデル(新興国市場成長モデル)」で発展してきた。メインバンク制が浸透し、人口の増加によってコストは安く質が高い労働力が日本経済を大きく発展させる一方、「プロの経営者が育たないシステムになっていた」と言う。そのようなモデルでの成長は当然長く続かず、バブル崩壊、“失われた30年”へとつながったのである。高岡氏は、こうした状況を打開するべく考えた。

「先進国であっても利益がある成長モデルを作ることを決意しました。そのためには新しい21世紀型のマーケティングとイノベーションしかないと、スイス本社に説いたのです」(高岡氏)

高岡氏は21世紀型のマーケティングを、「顧客の問題を見つけて解決することによってもたらされる、付加価値を創出するプロセスとその活動」と定義し、ネスレ日本の社員たちに伝えていった。

イノベーションとリノベーションの違い

一般に、イノベーションは顧客が抱える問題に焦点を当てることで得られるケースが多い。高岡氏はイノベーションをさらに分解し、顧客自身が認識している問題を解決する「リノベーション」と、顧客自身が認識していない、あるいは解決できないと諦めている問題を解決する「イノベーション」の2つがあると定義する。

例えば、部屋の中が暑いという問題がある。かつては扇子やうちわで解決していたが、約100年前、米国で扇風機が発明された。これがイノベーションである。電気と石油がもたらした第二次産業革命によるものだが、仮に、この時代に現在のようなマーケティングがあったとして、消費者調査をしても、誰も扇風機を作ってほしいとは言わなかっただろう。まさに、誰も認識していない、あるいは解決を諦めている問題の解決だったわけだ。

扇風機がイノベーションなら、その後のタイマー、首振り、風力調整などの機能向上はリノベーションになる。さらにその後、エアコンというイノベーションが起こり、ここでも除湿、イオン放出、空気清浄などの機能のリノベーションが続いた。

  • イノベーションとリノベーションの違いのイメージ

「イノベーションが起こる回数は極めて少ないです。イノベーションの後に、顧客が認識している問題によってリノベーションが生まれます」(高岡氏)

イノベーション、つまり解決を諦めているような問題の解決のためには、大きな新しいエネルギーが必要になる。それ故、イノベーションと産業革命は密接に結び付いている。18~19世紀の石炭/蒸気、20世紀の電気/石油、そして21世紀はインターネットとAIだ。