関西学院大学は4月7日、「ナトリウムイオン電池」(Sodium Ion Battery:SIB)の電極材料として、芳香族アゾ配位子と酸化還元活性な金属イオンを含むユニットからなる有機-無機ハイブリッド化合物が、高容量と高電圧を実現することを見出したと発表した。
同成果は、関西学院大 工学部の吉川浩史教授、米子工業高等専門学校 総合工学科の清水剛志特命助教(関西学院大大学院 理工学研究科 理系学部研究員兼任)、関西学院大 理学部の豆生田匠海学部生、同・豊嶋広樹大学院生(研究当時)、同・田中大輔教授、同・秋吉亮平助教らの研究チームによるもの。詳細は、米化学会が刊行するエネルギー変換と貯蔵に関する学際的な分野を扱う学術誌「ACS Applied Energy Materials」に掲載された。
現代文明を支える技術の1つであるリチウムイオン電池(LIB)は、リチウムやコバルトなどの希少金属を使用しており、資源枯渇の問題を抱えている。電気自動車の増産など、今後はさらなる需要拡大が見込まれており、リチウムもコバルトも早ければ2030年ごろには需要が供給を上回ってしまうと懸念されている。そうした中、資源枯渇の問題を避けられる上に、LIBに匹敵する電力を低コストで得られることから、ポストLIBとして近年注目されているのが、ナトリウムイオンをキャリアとするSIBだ。
SIBは近年の研究により、活物質として資源量として豊富な有機化合物を利用しつつも、性能向上が進んでいる。中でも、芳香族アゾ化合物はSIBの負極活物質として多電子酸化還元反応と急速充放電を示すことから、活物質の有力な候補として期待されている。
しかしその一方で、これまで開発された芳香族アゾ化合物は課題も抱えていた。電解液への溶出による容量減少を防ぐため、酸化還元不活性なカルボキシレートを結合させる必要があり、重量当たりの容量が小さくなってしまっていたという。また、カルボキシレートを結合させたアゾ化合物は1.2Vと低電圧しか示さないため、正極活物質としてはこれまで利用することができず、芳香族アゾ化合物を正極活物質として利用するためには、カルボキシレートを使わず、酸化還元活性な原子と結合させることが求められていたとする。
そこで研究チームは今回、SIBの正極活物質として「アゾピリジン(azpy)配位子」および酸化還元活性な銅(Cu2+)イオンを含む「CPL-4」を用いることで、芳香族アゾ化合物の電解液への溶出を防ぐとともに、高容量と高電圧を兼ね備えたSIBを開発することにしたという。その結果、SIBの電極材料として、芳香族アゾ配位子と酸化還元活性な金属イオンを含むユニットからなる有機-無機ハイブリッド化合物が、高容量と高電圧を実現することを発見したとする。
今回の高容量の実現は、azpyの2.0VとCu2+イオンの酸化還元反応に基づくものだ。そのメカニズムとしては、Cu2+からCu+の可逆な酸化還元反応を伴うナトリウムイオンのCPL-4内部への挿入/脱離が起きていることが考えられるとしている。
また、CPL-4を正極活物質としたLIBの電池特性との比較が行われたところ、リチウムイオンの挿入/脱離はCPL-4表面近傍でのみで起きており、容量が小さいことが示されたという。このように、CPL-4は、キャリアイオンによって異なる反応機構を示すことも今回の研究から明らかとなったとした。
今回の研究成果は、芳香族アゾ化合物を正極活物質として利用するアイディア、およびLIBとは異なる新たな活物質設計の指針として、SIBをはじめとする次世代蓄電池の開発に広く活用されることが期待されるとしている。