東北大発ベンチャーのC&Aと東北大学は4月4日、貴金属ルツボを使用しない新規結晶育成手法「Oxide Crystal growth from Cold Crucible(OCCC)法」を開発し、次世代パワー半導体として期待される酸化ガリウム結晶を最大約5cm径で作製することに成功したと発表した。
同成果は、C&Aの鎌田圭代表取締役社長、東北大 金属材料研究所の吉川彰教授(東北大 未来科学技術共同研究センター兼務)らの共同研究チームによるもの。
さまざまな電子機器の低消費電力化を実現する次世代パワー半導体としてSiCやGaNの活用が進んでいるが、その先の高性能パワー半導体として期待されている材料の1つに酸化ガリウム(Ga2O3)がある。その優れた材料物性からSi比で約3400倍、SiCと比べても約10倍の省エネルギー効果があるといわれている。
このGa2O3はSi同様、原料を溶かし、液体から結晶成長させる融液成長が可能であるため、成長速度が速く、一度に大容量の結晶を製造できる可能性が指摘されているが、現状の結晶作製方法は、融液を保持するルツボに高価な貴金属であるイリジウム(Ir)を用いることが必要なため、コスト低減が難しいとされている。また、この製作方法では、ルツボからIrがGa2O3融液中に溶け出し、育成した結晶への金属汚染してしまうリスクがあるとされているほか、Irルツボの酸化を防ぐために低酸素分圧下での成長を余儀なくされ、製法由来の酸素欠陥が生じるなどの問題を抱えていたという。そこで、研究チームではルツボを使用しない新規の結晶育成装置ならびに結晶育成技術の開発を試みることにしたという。
そうして新たに開発されたのがOCCC法で、Ga2O3の原料を隙間の空いたバスケットの中に充填し、高周波コイルで磁場を発生させ、Ga2O3原料を直接加熱。高周波磁場の出力を上げることでGa2O3原料が融解され、この時、原料融液と水冷したバスケットの間に焼結に適した温度域が生じ、ここで原料が固化し、融液を保持するルツボの代わりとなるという仕組みとなっているという。
原料の中心部のみを高周波加熱により溶かしつつ、周辺部を適切に冷却することで、安定した育成状態を実現することが可能であり、この状態で融液に種結晶を接触させ結晶成長させることで、大口径のGa2O3インゴットの作製が可能になると考えられている。
この方法自体は、導電性のよい金属材料などではスカルメルト法として広く利用されているものの、Ga2O3のような導電性の低い酸化物材料を加熱するためには、高い周波数の磁場を安定して発生させる装置が必要となったことから、C&Aが独自の高周波加熱装置を開発。それを熱源として、そこにSiやGaAs、タンタル酸リチウム、YAG、LYSOなどで量産実績のある引き上げ法を組み合わせることで、Ga2O3のバルク単結晶育成を可能としたとする。
研究チームによると、これまでに最大で約5cm径の結晶が得られているという。また、同手法で開発された結晶にはルツボによる金属汚染もないことから、高品質な結晶となり、特性や信頼性を低下させる結晶欠陥を低減し、より高性能なデバイスの実現につなげられる可能性も出てきたとする。
なお、C&Aでは、今回の成果をもとに、2インチ(約5cm)径のGa2O3基板を生産し、販売することを計画しているとするほか、結晶成長条件を最適化させることにより、より結晶欠陥を低減させた基板の実現や結晶サイズのさらなる大型化も目指すとしている。
ただし、Ga2O3をパワーデバイスとして実用化するためには、単結晶基板をもとにドリフト層をエピタキシャル成長させたり、電極作製などのデバイスプロセスを構築する必要もある。これらの課題に対しては、国内外の研究機関やデバイスメーカーと密接に協力関係を築くことで実用化を目指すとしている。