最新の電気自動車(EV)の動向とそれを取り巻く充電インフラは、消費者エンゲージメントに関して全く新しい見方をもたらします。フォードやGM、VW、メルセデス・ベンツなど、世界のさまざまな自動車メーカーが電動化に取り組み、2035年までに内燃エンジン(ICE)自動車の生産停止を目標としています。この大規模な自動車の電動化は、自動車業界とそれを支援する企業が1世紀以上にわたって経験してきた最大の変化を生み出します。

  • 世界販売台数

    世界販売台数。乗用車および軽量自動車の年間世界販売台数の見通し(2030年まで) (乗用車および軽量自動車の世界販売台数の単位は100万台) (出典:Electric vehicle trends、Deloitte Insights)

EV化における消費者行動

この変化がもたらす充電インフラと排出率の関係に注目が集まっていますが、EVへの移行が消費者行動に与える大きな変化を認識することも重要です。

現在、人々はガソリンスタンドでの給油に3~5分を費やし、その間に約3割の人がコンビニに入り、そこで約20分費やしていると言われます。しかし、EV化が進んだ場合、給油中にコンビニでコーヒーを買うことで生まれた約5000億ドルの消費行動は過去のものになります。EV化において、充電はナビゲーションと同様に運転に不可欠なものとなり、消費者は地元のコーヒーショップからショッピングモールまであらゆる場所で車を充電することになります。また、その都度払いに代わり、充電サービス課金登録が利用できるようになります。この分野のイノベーションは、Chargepoint、Blink、Teslaに限定されるものではなく、広告、インタラクション、およびエンゲージメントに新しい方法をもたらします。

主にバッテリーの構造上の理由から、EVの充電に数分、フル充電には数時間かかります。消費者は、現在のガソリンの入手方法とは大きく異なるアプローチを取ることになります。消費者の行動全般が、充電できる場所と時間、そして充電にかかる時間に左右されます。人々が移動する際には、自分が運転するEVがより大きなモビリティエコシステムにおいて果たす役割を考慮するようになり、電車に乗ったり市中心部に歩いて行ったりする前に、充電できる駐車場の場所を検討することになります。業界はインフラを標準化し、どんな電気自動車でも日常のいたるところであらゆる充電ステーションが利用できるようになります。

音声によるEVの進化

EVの充電は、オンサイトでのユーザーエンゲージメントを再考するきっかけになるでしょう。そして、音声はそれを実現する最も効果的な方法です。

日々の購入決定が充電のニーズによって左右されるという消費者行動の大きな変化は、自動車を商取引において強力な場にするでしょう。ブランド各社は、充電中にドライバーの注意や財布の状態を把握し、オンサイトで充電オプションを提供することで、消費者を実店舗に引き寄せることができるようになります。

車内での音声アシスト機能によるロケーションベースのナビゲーションシステム、画面と付属のモバイルアプリに接続された「スマートEV充電ステーション」は、この新しいEV充電商取引エコシステムの中心となります。なぜなら、それらはドライバーが既に把握し、信頼しているエクスペリエンスの一部として、プロアクティブかつシームレスで安全なインタラクションを促進できるからです。インタラクションをダイナミック、インタラクティブ、かつ魅力的に、そしてはるかに充実したエクスペリエンスにします。

車載アシスタントは、EVが充電不足であることを認識し、ドライバーが1日の計画を立てる際に、プロアクティブに近くの充電ステーションへの道順を案内することができます。また、コーヒーや食べ物の選択肢に関するヒントを提供することで、充電を維持し、航続距離の不安を過去のものにすることもできます。車載アシスタントは、車に必要な充電量とドライバーのいつものコーヒーの選択を識別するだけでなく、音声認証を使用して、事前注文や前払い方法を選択することも可能です。ドライバーが充電中も車内に滞在する場合、音声アシスタントは車内カラオケのような娯楽オプションの提供や、近くの歴史的建造物についての説明、さらに、この場所でしか利用できないトークンやクーポン等を収集することができます。

これから充電のあり方がEV購入決定の重要なポイントになるでしょう。また音声アシスタントは、オンボードデータをクラウドアプリケーションと統合するので、ドライバーは自分の充電プランに関連している地域や時間に応じた割引を利用できるようになります。あるドライバーが充電するためにショッピングモールに停車したとします。音声アシスタントは、これまでの乗車経験からドライバーがタイ料理を好んでいることを認識し、充電中にプロアクティブにタイ料理店でランチを食べたいかどうかを尋ね、その日時にしか利用できない割引コードを提示することができます。

こうしたダイナミックな動きとEV充電がもたらす消費者行動の変化を考慮すると、EVは自動車メーカーやブランド企業の収益源としての役割を果たす可能性が飛躍的に高まっていることがわかります。音声によるエンゲージメントは、複雑さを増すのではなく、充電エクスペリエンスを全体的な運転エクスペリエンスに合理化することでEVが潜在能力を発揮する助けとなり、容易にドライバーの車内外でのエクスペリエンスを最大化します。

EVの未来が近づいています。音声対応アプリケーションは、ドライバーに新しい世界と慣れ親しんだ世界を文字通りコネクトする、重要なものになります。

著者プロフィール

クーマー・アブシマニュ(Kumar Abhimanyu)
Cerence
モビリティセールス部門シニアバイスプレジデント

アダム・エムフィールド(Adam Emfield)
Cerence
ユーザーエクスペリエンスおよびCerence DRIVE Lab部門ディレクター