「製造業におけるエンジニアリングプロセスを高度化するには、製品情報や製造情報のデジタル化が欠かせない」——経済産業省「製造業DXレポート~エンジニアリングのニュー・ノーマル~」有識者会議の座長を務める東京大学 名誉教授 木村文彦氏は、そう語る。

3月15日に開催された「TECH+フォーラム 製造業DX Day 2022 Mar. 事業革新のプロセス」で木村氏は、国内外のものづくり技術の現状を展望し、エンジニアリングのデジタル革新による今後の発展の方策を提示した。

  • 東京大学 名誉教授 木村文彦氏

製造業の社会インフラ化

現代の社会は精微に構築されたネットワークで支えられており、ネットワークは人工物=ものから構成される。つまり、ネットワークに必要な全ての情報は、製造業から供給され得るとも言える。これを木村氏は「製造業の社会インフラ化」と表現する。そして、製造業の社会インフラ化が実現した場合、製造業のビジネスモデルは、従来のような製品売り切り型ではなく、製品およびそれらが構成するネットワークの全ライフサイクルを支える活動へと変容していくという。

この考え方について木村氏は「ネットワークを介して既存産業が連携・融合し、新しい産業が生まれてくる。そのため製造業は、新たな産業を創出し支える社会インフラへと変容する。情報で制御されるサービス提供ネットワークが社会インフラとなり、サイバーフィジカルシステム構築の基盤となる」と説明。こうした世界を現実にしていくためには、ものの情報がデジタル化されていることが必須になるという見方を示した。

生産科学の本質を考える

木村氏は、生産科学の重要性も指摘する。ものをつくるための知識は大きく分けて「Analysis(分析)」「Synthesis(統合)」の2つから成る。木村氏によると、横断的な学術であるSynthesisは十分体系化されておらず、ソフトウエアツールも未成熟であり、汎用的な工学知識のデジタル化が遅れているという。これをいかにモジュール化・標準化して提供できるかが今後の課題となる。

「共通理解(Ontology)の整備、産業分野を横断できるInteroperability(相互運用性)を達成していくことが望まれます。個別領域の工学は発達していますが、新しいものをつくるためには総合的なSynthesisの学術として生産科学の本質を考えていかなければならないのです」(木村氏)